今回の症例は「右側の椎間関節性の腰痛と椎間孔狭窄による神経障害」です。
今回のテーマは、【力学的な運動連鎖と関節構造から見た運動連鎖(カップリング機能)理論】と【行おうとするスイングフォーム】に対してのストレスについてです。
理論と実践のズレは、さまざまな身体の不調やパフォーマンスの低下に繋がります。
ゴルフにおけるスイングフォーム
遠くにボールを飛ばすためには、遠心力や重心移動などの力学的な力をうまく利用しなければなりません。
回旋することで生まれる遠心力、もしくは右から左に重心を移動させる、最近流行りの下から上に蹴り上げる力を利用するなど、力学的な力のかけ方によってさまざまな良いフォームというのがゴルフ雑誌やyoutubeなどで取り上げられています。
どれも正論ではありますが、体に合っているかどうかはその人自身の身体機能に依存しているといってもいいでしょう。
回旋力を生み出すキネマティクス
今回は回旋力を利用するゴルファーの腰痛についてご紹介するため、「回旋」に絞って身体機能を紹介したいと思います。
どういった運動連鎖を行うかによって適切なフォームが変わってきます。
キネマティクス(運動学)とキネティクス(運動力学)の概念が今回の症例の考え方と同じになりますので、治療家の先生はそちらも調べてみてください。
ゴルフスイングにおいて身体を左回旋すると、関節運動学の視点で言うと胸椎レベルでは肩が上がる、腰椎レベルでは肩が下がるといったカップリングと呼ばれる回旋に伴う側屈が加わります。
これは関節構造上の正常な運動連鎖ですので、無理矢理肩の上げ下げを調整しようとすると怪我やパフォーマンスの低下につながります。
このカップリングを学ぶ際の概念は、「下の椎骨に対して上の椎骨が関節構造的にどう動くか」で説明してあるため、「上の椎骨に対して下の椎骨が動く場合」は想像力が必要です。
というのは、肩を前方に回旋していく場合のカップリングと、腰を先行して回旋する場合とでカップリングは逆転するからです。
ダウンスイングの脊椎のカップリング
ダウンスイング中のカップリングで考えなくてはいけないのが、どこから身体を回旋させるかです。
肩から動き始めれば、「下の椎骨に対して上の椎骨が動く」わけですが、
腰から動き始める場合は「上の椎骨に対して下の椎骨が動く」ことになり頭の中でカップリング機能を反転させなければなりません。
腰が先行して回る場合に起こる腰椎のカップリングは骨盤の左回旋に伴い、腰椎は左屈(右肩が上がる)していきます。
ゴルフのスイングは基本右肩を下げてアドレスに入ることがほとんどのため、この右肩が上がっていくカップリングに対してフォームの修正を行おうとする方は多く、右側が上昇していく力と、右肩を下げて修正していこうとする力が重なる点に椎間関節の狭窄が起こり、椎間関節性の腰痛や椎間板ヘルニア、神経根障害を起こすことがあります。
下の動画は、今説明した「腰から回旋する場合」とは逆の「腰に対して肩を回旋する場合」に起こるカップリング機能(右肩が下がる)場合の動画ですが、こういった関節の構造とスイングに対する矯正するための意識によって下の動画にあるような腰痛がよく起こっています。
症例
男性 ゴルフ
現病歴:左回旋時に腰から回すように意識して練習していたところ、右足に坐骨神経痛を来して来院に至る。
腰から回す際の腰椎レベルでのカップリングは左屈していくため、右側の椎間孔は回旋でのストレスは受けるものの、側屈に対しては椎間孔は開く形を取るため、狭窄による坐骨神経痛は起こし難い。
しかし、胸椎のレベルにおいては回旋を強めると、腰椎へとのしかかるように右屈を起こすカップリングを起こす。
触診でも確かに、腰椎は右凸を起こし、胸椎は左凸を起こしています。
第12肋骨が右下方へと強く変位を起こし、腰方形筋などが強く緊張しているため、腰部の凸変位の一部分に強い圧迫があったと予想できました。
骨盤の回旋が先行して起こる中で、遅れてくる回旋を始める胸椎において強く回旋を起こしている部分を調整し、腰部の回旋が逆に遅れている回旋制限を調整することで、坐骨神経のストレスを改善することができ、坐骨神経痛は治りました。