仙腸関節の痛みとFAI(インピンジメント)の関連 鼠蹊部と臀部の痛み

寛骨の前傾・後傾 腰・股関節の障害
寛骨の前傾・後傾

今回は名医たちの診断と私の評価が真逆の結果が出ており、正確な評価というものが本当に微妙な差であることがよくわかる事例でした。

名医たちの診断の経緯は各種論文からも理解はでき、ただ正確に触診できれば、そのような結果にはならないことから、知識だけでなく、正しく触診する触診力も身につけなければ、痛みをとることは難しいことがよく理解できました。

20年以上ひたすら繰り返し仙腸関節の触診を磨いていても未だ正確な触診が難しいと感じていましたが、名医であっても誤った認識をするという事実からは、自分が感じている以上に身体を正しく理解するということがいかに難しいかを実感します。

というわけで今回も難治性の仙腸関節痛の症例です。

仙腸関節障害の原因

仙腸関節周囲の障害に対しては、これまでに様々なケースを紹介してきました。

その都度、いろんなストーリーに気付かされますが、今回はどんな症例でしょうか。

強固な靭帯で固定されているはずの仙腸関節がなぜ問題を起こしたか背景にあったのは・・・

股関節の疾患(FAI:大腿寛骨臼インピンジメント症候群)に対するリハビリ及び運動療法が逆に仙腸関節に負担をかけ難治性の仙腸関節障害となった症例です。

股関節のインピンジメントは二種類あって、FAIと呼ばれる寛骨臼と大腿骨頸部の衝突現象であるFemoroacetabular Impingement(FAI)と寛骨の坐骨結節部と大腿骨の小転子が衝突する(IFI)があります。

後ほど詳細な論文をご紹介しますが、このFAIにおいて知られている運動療法が仙腸関節の不安定性を起こし、医原性の仙腸関節障害を起こしていました。

まずは股関節のインピンジメント症候群について紹介したブログをご紹介して、今回の症例に移りたいと思います。

以前に投稿したFAIのブログはこちら
FAI 大腿骨寛骨臼インピンジメント

実際のその症例のCT画像

crossoverサイン Pincer型
crossoverサイン Pincer型

以前に投稿したIFIのブログはこちら
大腿部後面と臀部の痛み(スポーツ・産後) 仙腸関節の障害による坐骨大腿インピンジメント

症例:FAIと仙腸関節の不安定

歩行の接地時に股関節の付け根(前方)に肉離れのような引き裂くような痛みが走り、そこから足全体の痛みが出現。

その後急性期のような激しい痛みは緩和されたが、臀部(仙腸関節下部)の痛み、鼠蹊部の痛み(グロインペイン)、足首の痛みと違和感が残り続ける。

動作的に不安が強いのは、座ったりものを拾ったりする屈む動き(股関節の屈曲)が一番辛いが、ただ歩行時の足を後ろに伸ばす時にも痛みと不安感が強い。

歩行時は股関節周囲の症状だけでなく、足首がパキパキと音が鳴ったり、足首の不安定さを感じるという足全体の症状を自覚しています。

仙腸関節・股関節・膝関節・足関節全てに症状があるというのはそんなに珍しい症状ではないですが、それぞれの問題をつなげていく包括的アプローチができなければなりません。

最初の怪我は、大腿直筋の軽い肉離れのような損傷と診断されていました。

痛みが引かずに股関節周囲の筋肉に対して?ブロック注射を行いましたがあまり効果がなく、2回目のブロック注射は股関節に近いポイントに行いました。こちらの注射は数日の痛みの緩和があり、肉離れというよりは股関節炎というような見解に変わったのかと思います。

最後にまたご紹介しますが、この肉離れ様な症状も実は仙腸関節の障害だったかもしれません。

まずは、外傷後に起こった仙腸関節障害について、名医たちとの見解の違いについて説明していきます。

名医の見解に対する違和感

まず一点目の誤解:大腿直筋の負担の原因

大腿直筋の損傷があった場合、それに対しての介入として、

①筋の短縮と考え、伸長制限によるストレッチを選択する

②伸長過多と考え、股関節屈曲位(骨盤前傾位)を取り、筋肉の伸長を抑制し弛緩させる

この2つは全く逆の介入となるため、筋肉の損傷の場合、まず最初に筋肉の状態を伸ばされているのか、縮みすぎているのかを評価することがとても大切になります。

ここで患者さんを正しく評価することが大切になるのですが、私は触診と検査から次のように推測しました。

触診の結果からの見立て

骨盤が後傾を取っているため、大腿直筋が伸長されて損傷

さらに仙骨に対する寛骨(腸骨)の後傾過多による仙結節靭帯の損傷

つまり先ほどの②の介入を行い、寛骨の前傾モビライゼーションを行いました。

そのほかにもいろんな調整を行いましたが、結果は歩行動作や立った時の痛み・違和感は消失。かがみ動作は少し症状が残り、可動域制限が少し残っている程度まで改善しました。

名医・リハビリスタッフの評価と処方内容

患者さんから聞くと名医とそのリハビリスタッフたちからの運動療法は常に骨盤後傾を処方されていたとのことです。

つまり①と考えていたのでしょうか。おそらくは①②という評価をしたというよりはある文献に基づいた対応をしたと考えられます。

というのも患者さんはレントゲンからもすぐに察しがつくのですが、FAI:寛骨大腿インピンジメント(CAM型:大腿骨の変性によるインピンジメント)を有していました。

FAIと骨盤運動に関わる論文に、こんなものがあります。

ちなみに私も読んでいたのですが、下記の論文を引用してこの名医の先生とリハビリスタッフは数々の論文を執筆していました。

Catelli DS,et al: Asymptomatic participants with a femoroacetabular deformity demonstrate stronger hip extensors and greater pelvis mobility curing the deep squat task.

Asymptomatic Participants With a Femoroacetabular Deformity Demonstrate Stronger Hip Extensors and Greater Pelvis Mobility During the Deep Squat Task - PMC
Cam-type femoroacetabular impingement (FAI) is a femoral head-neck deformity that causes abnormal contact between the fe...

Cateliらは、FAIS群は、asymptomatic FAI群よりもスクワット時の骨盤後傾角度が小さいことを報告した。

このことは、股関節屈曲に伴う骨盤後傾可動性が保たれていれば、FAIの骨形態異常を有していたとしても発症しない可能性を示唆している。このことから、FAIS症例では股関節屈曲に伴う骨盤後傾運動の程度を評価することが重要である。

Kobayashi N at al: Effect of decreasing the anterior pelvic tilt on Tange of motion in femoracetabular impingement; a computer-simlation study.

Effect of Decreasing the Anterior Pelvic Tilt on Range of Motion in Femoroacetabular Impingement: A Computer-Simulation Study - PMC
The influence of pelvic tilt mobility, which can be reproduced in computer-simulation models, is an important subject to...

CAM型のインピンジメントの股関節の可動域改善(主に屈曲と屈曲内旋)には骨盤を後傾させるとCAM切除の手術と同等の結果が得られた。

この論文を普段引用している方からすれば、CAM型のインピンジメントを有していれば骨盤を後傾させることが正解と考えるのも問題はありません。

症例に対する触診と画像からの検証

ただ、これらの論文を普段仙腸関節の診療に活かしている私からすると、「骨盤を後傾させる」は、「寛骨を後傾させる(仙腸関節の動き)」のか「寛骨・仙骨ともに後傾させる(骨盤と脊柱による屈曲)」のどちらをその方に提供するべきなのかを適切に評価して行わなければ、腰部や仙腸関節に負担が起こることを知っています。

そして今回の症例では、骨盤の後傾が寛骨の後傾を大きく行わせてしまい、仙腸関節の強靭な靭帯での安定を破綻させたのでした。

触診だけでなく、実際のMRI画像を細かく分析しても骨盤後継は明らかでした。

股関節の著名な外科医も担当の理学療法士もなぜか骨盤後傾を必死に処方していますので明らかな誤解をしていたのだと思います。

これは仙腸関節の機能によって左右の差が出ます。

それでは評価とともに症例報告していきます。

触診とモーションパルペーション(動きの触診)の評価

左股関節は伸展位(骨盤後傾と大腿骨の伸展位による腸骨大腿靭帯の痛み)

左寛骨は後傾・仙骨は前傾→左仙腸関節はこれによって仙結節靭帯の痛み

寛骨は後傾に加えてさらに外方腸骨(内旋)。これによって前方の恥骨大腿靭帯の痛み(グロインペイン)と後仙腸靭帯の痛み

このグロインペインに関しては、恥骨大腿靱帯の疼痛ではなく、坐骨の内側前面の可能性は高いです。本人の痛みはなかったものの、坐骨大腿部のスペースが狭くなっていたので、IFIの要因もあったかもしれないです

患側のスペースが11mmで健側が26mmとなっています。
ある文献によれば15mm以内を坐骨大腿インピンジメントとする、とも書かれているので、グロインペインはここからきている可能性もあるかと思います。

第5腰椎は左側屈変位(L5/S1の狭小による坐骨神経障害も併発。臀部及び足の筋緊張増加)

またL5左下方変位による腸腰靱帯の弛緩。これによる仙腸関節の不安定性増加

第4腰椎は右側屈変位(腰椎の左側弯 頂椎L4)による左臀部に体重が集まる

主な治療内容とその結果

仙骨のニューテーション(うなづき運動)の抑制:仙腸関節の安定

腰仙関節の離開(屈曲と左の離開)

左寛骨の後傾・外方変位の改善(前傾モビライゼーション)

腰椎の左側弯の改善(第4腰椎モビライゼーション)

治療後

歩行時の足首の違和感や、立脚の身体の不安定が消失

深く屈むのはまだできないが、屈んだり立ったりの動作時の仙腸関節および鼠蹊部の痛み消失

とかなり改善しました。

FAIがあるために股関節の可動域の改善はかなり慎重に行わないと仙腸関節の障害を再び起こすことになりますのでここが今後の治療の課題かと思います。

症例検討からの気づき

あとで復習しながら気づいたことですが、

最初肉離れのように発症した「引き裂かれるような痛み」に関しても、もしかしたら仙腸関節の障害かもしれないことがわかりました。

仙腸関節の離開(不安定症)が大きく起きていたのがS0と呼ばれる領域でした。

このS0の領域は、大腿部前面に関連痛が起こることが多いようで、大腿神経痛か大腿直筋の肉離れの疑い以外にも仙腸関節の関連痛もあり得ることがわかりました。

参考論文:Referred Pain from Low Back Ligament Disability
https://jamanetwork.com/journals/jamasurgery/article-abstract/554058

実際のところは「神のみぞ知る」領域ですが、少しでも真実に近づくためにはこういった考察も必要かと思います。

今回も難治性の仙腸関節の痛みに対してうまく治療ができ、ここ一年で身につけた知識と何度も繰り返し練習してきた検査・触診・治療がだいぶ成長してきたことを実感できた嬉しい症例でした。今後も精進を続けていきたいと思います。

治療院詳細

にしむら治療院
東京都港区芝5−27-5山田ビル503
駐車場1台
Tel:03-6435-2437
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アギトス鍼灸整骨院
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