仙腸関節の障害について
仙腸関節の機能障害には、可動性が低下する状態と、可動性が亢進するいわゆる捻挫のような状態があります。
可動性が亢進(捻挫)する原因には、動画で説明しているように、上半身の質量中心が左右どちらかに偏るとその重みを長時間受けている仙腸関節は次第に支えきれなくなって、遂には捻挫のような状態となってしまいます。
その他にも股関節に存在する強い筋肉が長時間収縮した状態にあっても仙腸関節は次第に引き剥がされるように不安定をきたしてしまいます。
通常、仙腸関節には強い靭帯が張り巡らされており、強固な関節ではありますが、前述したような状態や、最近は仙腸関節に対して強い矯正を行うことでも捻挫をしたように不安定になるため、骨盤矯正後に逆に不安定となることがあります。
仙腸関節を安定させるための腸腰靭帯の解剖学
仙腸関節は「腸骨(寛骨)」と「仙骨」での関節のため、その関節の前面と後面を覆う『仙腸靭帯』によって固定されています。
そしてもう1つ強固な靭帯が今日お話しする【腸腰靭帯】です。
腸腰靭帯は、第4及び第5腰椎から腸骨に付着する靭帯で、細かく記載された解剖学では、5つに分類されています。
- 上腸腰靭帯
- 下腸腰靭帯
- 前腸腰靭帯
- 後腸腰靭帯
- 垂直腸腰靭帯
腸腰靭帯の走行に合わせて、腰椎がそれぞれの方向へ動く際の仙腸関節の安定を図っています。
腸腰靭帯は、その走行から腰部や骨盤部の状態により張力が変化してしまいます。






上記のように、腰部が圧迫を受けると腸腰靭帯が緩み、下部腰椎および骨盤が不安定な状態へと進んでしまいます。
症例をもとに腸腰靭帯の細かい機能と症状について説明します。
症例:仙腸関節の理解と腰椎の回旋変位
ランニングを月に200km近く走る方が、右足の筋力低下と鈍痛・痺れを来たして来院されました。
筋力検査にて伸長反射の低下から神経性の筋出力低下だとわかり、腰椎の治療及び仙骨の治療を行っていきました。
確かに治療直後から筋出力は改善するのですが、数日で戻ってしまい、どうも治療効果が長く継続しません。
そこで腰椎・腰仙部だけでなく、仙腸関節の不安定を来たしている点に注目し、腰部の治療と合わせて仙腸関節の機能変化を見たところ治療効果が長く続き、腰部と仙腸関節の関連による坐骨神経障害だということが判明しました。


腸腰靭帯には、腰椎の回旋時に図のような靭帯の張力の変化があり、腰部と骨盤部を安定させることができています。


腰椎の回旋が強く起こったため、腸腰靭帯の繊維が不均衡な状態となり、加えてランニングの負荷(臀筋群の収縮)によって仙腸関節の障害が起こっていたようです。
腰部と腸骨の関連を見ながら施術することで改善できました。
症例2:腰椎の側屈による仙腸関節の離開→股関節の障害
もう一人はゴルフです。
ゴルフを毎週行っている方で飛距離アップを狙って筋トレに励んでから股関節の痛みが起こり、結果歩行障害になった方です。
椎間板症も併発しており、ブロック注射や股関節周囲のハイドロリリースなど試みるも改善が見られず当院に来院されました。
腰部の椎間関節がかなり狭小しており、椎間板症は触診からも判ることができるほどでした。
股関節の可動域が元々悪いとうい話から、「股関節の緊張→仙腸関節の離開→腰部の側屈」という治療プランとして行っていましたが、腸骨を大腿骨から引き剥がそうとしても容易ではなかったため、腰部の方から治療を進めていくことで結果股関節の緊張が取れてきました。


仙腸関節の障害と腸腰靭帯の機能
今まで腸腰靭帯の状態は「仙腸関節が不安定な場合に触診でわかる」と学び教えてきました。
しかし腸腰靭帯の細かい繊維を見ていくと、腰部の状態によって腸腰靭帯の張力に影響が出て、本来仙腸関節の安定に寄与するはずが機能を失って、仙腸関節がより不安定となってしまうことがわかってきました。
股関節の障害や坐骨神経痛の方のお役に立てれば幸いです。