例え、前回の痛みと今回の痛みの部位や性質(痛みの感じ)が同じであっても原因が異なることは容易に理解できます。
症状が結果だとすれば、そこに至る経路は無限にあり、根本治療というのが経路を遡り物事のスタートである原因にたどり着くことだとするならば、治療すべき一手は別になります。
今回の症例は、1年前に経験して改善した股関節の痛みが再発し来院され、改善までの過程で試行錯誤があったことをご紹介したいと思います。
症例:
主訴:右股関節の痛み・右膝の痛み・右足首の痺れ・腰痛
腿の内側が一番強く痛み、そこから股関節、臀部と痛み、膝の前面の痛みが波及し、日によっては足首周りに強張りも生じるといった症状でした。
合気道を教える立場でもあり、練習をしていると次第に足が上がらなくなり、次々に症状が増していくので、練習はしばらく中止し安静にて痛みが改善するも、練習すると痛みが再発するを繰り返し紹介にて来院されました。
前回の痛みに対する治療:
初診時の股関節の痛みは、右の上部腰椎の狭窄部位(L2/3)の調整と仙腸関節の調整(右腸骨前外方変位、後内方可動性制限)の調整で寛解し、しばらくは稽古をしっかり行っても大丈夫になり、メンテナンスとして来院を継続していました。
下の図は上部腰椎の神経障害と仙腸関節の変位による股関節痛の参考画像です。


2回目(再発時)の状況
しばらく通院継続していたのですが、練習時のアクシデントによって左足の指を骨折し、しばらくシーネ固定を行っていたこともあり、来院がしばらく途絶えていた期間がありました。
骨折の経過はよかったものの、痛みはなかなか引かず思ったよりも安静期間が伸びていたそうです。
やっと骨折は完全にくっつき、痛みは残るものの合気道の稽古に参加ができた途端に右足の痛みが再発しました。
状態としてはほぼ同じ上部腰椎の問題と右腸骨の変位がありました。
その点を治療すると治療後は痛みが減少するも、しばらく歩いたり、練習するとすぐに再発しまた動けなくなります。
そんな時は、初めて来院された時のように、先入観を捨て、頭をまっさらにして身体を見ていくことが大切です。
先入観を捨てるために状況整理
現状として、右上部腰椎の狭窄と右仙腸関節の前外方変位があります。
そこに対して、なぜこういった変位を起こしているのかと問いかけ、原因を探っていきます。
新患さんであれば、大切なのは、その前に起こっていた過去の怪我です。
つまり、左足の骨折時に起こり得る身体動作から分析してみました。
再度、触診・検査・評価を行って症状が起こっている結果までのプロセスを考えてみます。
既往歴と触診からの最終考察
左の指を骨折した経緯は、畳と畳の間に指が引っかかったまま動いたことによる骨折。
怪我(外傷)の後に起こった腰痛や肩の痛みなど運動器疾患は、怪我の際に影響を受けた体勢を考慮することがとても重要です。
しかし今回は、怪我の際の体勢というよりは、その後の固定期間中に起こっていた動作が問題でした。
左足を後ろにひきづるようにして、固定した左足の指に負担のかからない体勢をとっていました。
つまり骨盤として左回旋(左後ろ、右前)としてセットしていました。
初診時の見立ては【右腸骨の前方外方変位】はまさにこの左回旋の骨盤と似た状態です。
怪我によって元々の右足の痛みを起こしていた姿勢と同じ形をとっていたため、右足の痛みが再発していたようです。
左足を前方に持っていくことが困難な可動性制限が骨盤と腰部にあったので、そちらを改善させ、右足が前方にセットされる際の左腰部の後方変位を改善させることで、治療効果が長く現れ、3回の治療を経て通常の稽古が行えるようになりました。
フォームとその原因
スポーツのフォームは結果であって、もし問題となるフォームがあった場合、その原因はさまざまなプロセスが考えられるので、そのプロセスである原因をうまく捉えなければ、問題となるフォームを改善することはできません。
これと同じように、今回のケースも現状の神経を圧迫していたり、関節の動きを悪くしている今の状態の読み取りは間違っていなくても、そこに至る経緯の読み取りが間違っていれば体は変化してくれません。
今回もとても良い気づきを与えていただいた方でした。
少しでも改善していただけましたら幸いです。