ゴルフコンディショニング

腰・股関節の障害
鍋谷太一

昨年の症例をいくつか症例検討し、さらに細かい点に気づきを得られるように復習と予習をこの一年の前半はしています。

2023年の最終日と2024年の開始、つまり一年の終わりと一年の始まりに来院されているからだけではなく、プロゴルファーの鍋谷太一選手のコンディショニングは、2023年の成果を振り返る中で、ツアー初優勝を経験させてもらったり、とても印象的でした。

今回の症例についてざっとまとめた動画はこちら

鍋谷太一選手との出会いは腰痛治療

鍋谷太一選手は6月の終わりに腰痛によって試合出場を断念していた時に、いつも来院されている方のご紹介で当院に来られました。

鍋谷太一選手のプロフィールはこちら(jgto)

鍋谷 太一

日常動作では、痛くて動けないということはなく、ただスイング中に腰の張りが気になりプレーにならないため試合を一時的に諦めているという状態でした。

ですので、一般的な方の来院している腰の状態と比べるとはるかに軽症でした。しかしスポーツ選手にとって「動きづらい」は致命傷なので、痛みを取るだけでなく、もっと動ける体にして返さなければなりません。

見立ては第4腰椎の右後方・上方変位による「脊柱起立筋の伸長」という状態。

ゴルフでトップのポジションで腰部の背筋がつっぱり、そしてインパクト時に腰が押し出せないという症状に対して、まさにそうなっている腰椎の状態です。

腰椎が右後方変位によって、起立筋は伸長され、収縮しにくくなります。

側湾症モデル

この動画は今回とは異なりますが、脊椎の上方変位は側弯の凸のカーブ側に存在しやすいため、筋肉は伸長してしまいます。

この伸長された筋肉の障害はストレッチで悪化するため、徒手療法において関節の調整が必須となります。

彼の場合はこの第4腰椎の上方変位を取り除くことで違和感はなくなり、その後すぐにセガサミーカップで18位入賞。

しかし、試合が続くと腰痛は再発するため、第4腰椎を右回旋・及び左側屈になってしまう原因をしっかり掴んでいかない限り良い結果を続けて残せないという壁にぶち当たります。

特にゴルフは四日間の成績で争われるため、長期的なパフォーマンスを保たなければ優勝には辿りつけません。

痛みの原因を見つけるためにフォームの分析

「右の腰が張る」→「腰椎の後方変位と上方変位がある」→「回旋と側屈の動きを調整すると腰の張りは消失」ここまでは普段の診療と同じ。

ではなぜ右の腰を後方に回旋及び側屈の機能異常を繰り返し起こすのかを考えていきます。

パフォーマンスアップのために取り組んでいることはと問いかけると、
「トップの時にもっと右股関節に乗ること」
「トップのポジションで回旋を強く行うことで、腕を下ろすためのスペースをしっかりと確保する」

この2点をメインで練習に取り組んでいたことと、実際の腰椎の状態からわかったのは、
右股関節に乗ろうとするための右凸の側弯、腕を下ろすためのスペースを腰椎の回旋で作ってしまっているため腰椎の右後方変位を繰り返し作っている、ということがわかってきました。

では、右回旋しづらいところを探さねばなりません。

そしてモーション・パルペーション(動きの触診)をして見つけたのが「左の仙腸関節」でした。

仙腸関節の機能検査_1
仙腸関節の機能検査_1

仙腸関節の治療後、フォームを比較してみると

top位置
top位置(左治療前、右治療後)

左側が治療前で、右側が治療後なのですが、右側は股関節による回旋、つまり骨盤がより右回旋できているため腰椎の前弯も少なく、背筋の負荷が減っています。

治療前は骨盤の回旋が甘いため、お尻の向きが浅くなっています。その分だけ腰椎の回旋を必要とし、同じように右前方にスペースを確保しようとしています。

ダウンスイング(下の画像)を見ても骨盤の回旋がまだ残っているため腕を下ろすスペースがまだ残っています。

調子が落ちてくると、アドレス時に左足がオープンになっていく、というお話を聞いて、再度インパクトの状態を比較すると、左の治療前のインパクトでは、骨盤がすでに開き切ってしまうため、プッシュよりもプルの力がより強くなり、スライス気味になってしまいます。

右の治療後はインパクト後にさらに骨盤の回旋力も残されているためボールに力を加えやすくなります。

ゴルフのように止まった状態から力を産ませるスポーツは「可動域=パワー」という概念が強く、トレーニングやストレッチで無理矢理可動域を作ろうとすると各腰椎の可動性のバランスも崩れ、椎間関節や椎間板にも負荷を与えてしまいます。

今回の場合、第4腰椎が骨盤よりも右回旋の動きがハイパー(亢進)していて、仙腸関節によって骨盤の動きがハイポ(減少)していました。

この差を検査するのが20年学び続けているモーションパルペーションだったため、パフォーマンスアップにまで辿り着けました。

モーション・パルペーション研究会についてはこちら

鍋谷選手の腰は、幸い、器質的なダメージがなかったため、各腰椎の動きを1つ1つ調整することで気持ちよくプレーしていただけるようになりました。

今までアスリートを見てきた中で、腰椎分離症や椎間板ヘルニアを併発していた方もいました。そういった方はもう少し長期的な戦略を取る必要があったかと思います。

パフォーマンスアップのための戦略が整った後は、本人もプレーに集中しやすくなったようで、持ち前の技術を発揮してくださいました。

続く試合、福岡のSansan KBCオーガスタゴルフトーナメントで3位、フジサンケイクラシックで3位、そしてついにカシオワールドオープントーナメントでツアー初優勝、念願のJTカップも12位で終わり、ツアー国内賞金ランキング7位で一年を終えることができました。

その後も治療を重ねて、今年最初のアジアンツアーQTのファイナルも無事通過することができ、まずは海外の試合が数回続きますが、移動の負荷にも耐えられる体に調整できるようにまた細かい調整へと進んでいきたいと思います。

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