昨年の2023年の振り返りをする中で、ゴルフプレイヤーでの成果のようにすぐに思いつくのが「痙攣性発声障害」の治療です。
前回のゴルフのツアー優勝についてはこちら
約5年前でしょうか、初めて痙攣性発声障害の症状を抱える方を見る機会があったのは。
その方はオペラを昔されていた方でその時は歌の仕事はやっておらず、別の疾患で来院されました。どうにか発声障害の方もどうにかならないかと個人的にトライしていたものの思うような結果には至りませんでした。
ただ、その時に頚椎をあるポジションに支えると声が出やすくなることから、うまくやればかなり改善できそうな手応えはあったのを覚えています。
そしてその後ALSなどの神経疾患の方の嚥下や発声の機能低下に対して治療させていただいた経験などを経て、昨年夏に、ある有名な歌手の方が、痙攣性発声障害をどうにかできないかということで新たに挑戦させていただくことになりました。
昨年起きた「奇跡」を再現性あるものにしていくべく復習していきます。
まずは、今回の症例をもとに、痙攣性発声障害と発声の機能から復習していきます。
症例:痙攣性発声障害
症状は、「声のかすれ」「息もれが多く、途中で息継ぎが必要になる」「喉が締め付けられる感覚」が主なものでした。
今までに様々な治療をされてきたけれども、その時は悪化していたそうです。
痙攣性発声障害は外転型、内転型がありますが、「息もれ」のような場合は、外転型に分類されますが、「かすれ」や「締め付けられる感覚」は内転型ですので混合型に含まれるのかと思います。
※甲状披裂筋,外側輪状披裂筋が関与する内転型,後輪状披裂筋が関与するとされる外転型と内転と外転型が混在する混合型に分類され,内転型では発声時に 声帯が内転して声門が過閉鎖されることで発声中の呼気 流が遮断され,一方,外転型は,発声時に声帯が不随意的に外転して症状を呈する。内訳は約90 ~ 95%が内転型,5%程度が外転型,まれに混合型である
参考資料:痙攣性発声障害の診断と治療
「締め付けられている感覚」は声門が閉じすぎている状態で、「息が漏れる」は声門が開いている状態ですので、混合型でしょう。
次に、発声しにくい音声から分析しました。
ご本人からは特に音声による差はないということでしたが、会話や芸能活動中の声から分析するに「は」「か」の音が特にかすれているように感じました。
母音や子音の生成は、その音を生成する際にどの部位を使用するかによって治療のポイントを絞ることができます。
日本語における構音点は、両唇、歯茎、軟口蓋、声門があります。
「は」や「か」は軟口蓋や声門による発声様式なので、咽頭から喉頭にかけての調整がうまくできなくなったことが考えられます。
カ行の軟口蓋による発声は茎状舌筋や口蓋舌筋による舌を後上方に引き上げることで発声しています。
「は」は声門破裂音と声門摩擦音があり、「は」「へ」「ほ」は摩擦音に含まれ、声道に不完全であるが強い狭めを作り、狭くなった空間を桐生が流れる時に生じる持続的な雑音が生じたもの、とされています。
参考図書:言語聴覚療法学テキスト 発声発語・摂食・嚥下の解剖・生理学
声門を閉じるための被裂軟骨の内転のコントロールができず、締めすぎて仕舞えば締め付けられ、逆に広がると息漏れとなるのではないかと分析しました。
そしてここからどこを治療すれば改善が見込めれるか考えていきます。
発声障害に対する治療計画
舌骨・甲状軟骨・輪状軟骨が発声と直接に関係があり、かつ触われ調整できる部分です。
頚椎は食道や気管と関節的に関わることから、頚椎も調整ポイントだというのは多くの方が想像ができるかと思います。
舌骨は第3頚椎に、甲状軟骨は第5頚椎・輪状軟骨は第6頚椎と一般的には言われており、今回の症例は構音を声門で行っている音の症状でもあったため、第5・6頚椎は治療ポイントであることは想像できます。
もう1つの軟口蓋による発声は、以前にも耳管開放症でご紹介した咽頭収縮筋が後頭骨と第1頚椎のあたりにあるため、軟口蓋もその部位がポイントとなるのは、前から分かってはいました。
今回も結論から言えば、そこを正しく読み取り、そこを改善することでみるみる改善し、今では気にならないまでに治ってきました。
その正しく読み取ることがいかに難しかったか、そして状態がわかってしまえば、コントロールも難しくないことがわかります。
正しく読み取るまでに2ヶ月もかかってしまいましたが、辛抱強く通っていただけたことに本当に感謝です。
では実際どんな状態だったのかを復習がてら3Dモデリングしてみました。
痙攣性発声障害 頚椎の3Dモデリング
声帯靱帯が付着する甲状軟骨、被裂軟骨が一般的に存在していると言われる第五頚椎が最も回旋が強くなっており、第二頚椎は反対側に回旋することで見た目状の正面を向いていました。
ここで、声を出すときに右回旋と左回旋時にどちらが楽かと聞くと右回旋している方が楽だという話になり、左回旋が強い第5頚椎がキーポイントだということがわかりました。
また頚椎の前弯(伸展)がやや強い状態もあり、それによって甲状軟骨と輪状軟骨の伸展が起こり、声帯靭帯の張力がうまく出ていないのも発声障害のポイントだったかもしれません。
第5・第6頚椎の前方変位を取り除き、甲状軟骨と輪状軟骨の機能制限を解消するため、中部胸椎から頭頸部を起こすような治療も効果があったように思えます。
またそれを起こしていたとされる第二胸椎あたりの緊張は、声帯を支配する神経の反回神経の走行ポイントでもあったため、神経の促通も起こっていたかもしれません。
来院してから1ヶ月目の間でこの第5頚椎の回旋と前方変位にはすぐ問題点だと気づいて治療にあたっていたのですが、思ったよりも簡単に声のかすれも少なくなり落ち着き始めていたのです。
いろんな方が治療に携わってきたけれども良くならなかったという由来はここからわかってきます。
2ヶ月目に差し掛かったところで、改善していた状態から声のかすれや息漏れも強くなってきてしまいました。
ここから1ヶ月は試行錯誤があったのですが、治療後に寝違えたように首が一時的に回らなくなったことがあり、不幸中の幸いというのか、ここでもう1つのポイントを見つけることができました。
3Dモデリングの動画でゆっくりご確認いただくと分かるのですが、第2頚椎(軸椎)が右回旋しているのに対して、第1頚椎(環椎)は全体的には右回旋するように右側が後方へと移動しています。
ここが最大のポイントだったのですが、環椎の右回旋は、軸椎の右回旋よりも角度が少なかったのです。
つまり、環椎は軸椎に対してはごく僅かに左回旋していたのです。
ここの微妙な差を寝違い用の症状が来したことをきっかけに見つけることができ、そこからはどんどん症状が良くなり、この2ヶ月以上は全然気にならないというほどにまで回復してもらうことができました。
昔感じていた感覚である、「うまく調整できれば良くなりそうなのに・・」という感覚は正しく、明らかに昨年の胸椎と頚椎の検査と治療をずっと取り組んできた成果だと言えます。
モーション・パルペーション(動きの触診)を学び始めて20年経ちますが、基礎に戻って練習することで微妙な差も少しずつ分かるようにはなってきました。
それでも今でも錯覚にあい、身体を読み間違えることがどうしてもあります。この一年も基礎に立ち帰りさらに細かくそしてさらに正確な検査と治療ができるよう練習を続けていきたいと思います。