鍼灸の学校に入学してからすぐに、徒手療法の業界を同時進行で学び20年以上が経ちました。
技術がまだ上手いわけでもないのに、痛いところに針を刺せば、それなりにそしてなんとなく効いてしまう「鍼灸」に、すごさよりも、恐怖を感じたのは私だけかもしれません。
鍼灸の国家資格取得後に資格のあるなしに関わらず、特別な道具を使わない土俵に立って、痛みや痺れを改善させたい、そんな思いで徒手療法の勉強をずっと続けてきました。
筋肉、関節、神経を学び、技術の練習を怠らなければうまくなると信じていたけれども、それだけでは思うような結果が出ない人はたくさんいて、個人的体質のような差を理解しなければならないことに気づいてきました。
いわゆる解剖学書や機能運動学書に書いてあるような「健常な体」に対する学問ではなく、「体質の違い」や「病態の違い」というものを理解しなければ次のステージに進まないことを実感してきたこの10年。
いつの間にか全国から来院されるような自体になっているのですが、早く見合うようにこれから10年の成長のために、この10年での経験を振り返りながら、より深く深く踏み込んでいきたいと思います。
仙腸関節障害とその治療について動画も作成しましたので合わせてご覧ください
婦人科と仙腸関節障害
婦人科と骨盤帯痛(PGP:pelvic girdle pain)については、論文がある程度は報告されているため女性で難治性の仙腸関節障害を患っている方の中には、婦人科疾患との関連の検討の余地が残っている方もいらっしゃるかと思います。
「産前産後の骨盤矯正」なんてビジネスが盛んになっているため、妊娠前後の方は仙腸関節の治療を経験してきた方も増えてきていますが、健常な体とは違った個人差というものが存在し、それを理解することで難治性の治療の手掛かりとなります。
二例ご紹介します。

子宮後屈と仙腸関節障害
「子宮後屈」は病的なものとはされていませんが、正常は子宮は前方に折れ曲がる「前屈」状態であるとされ、20%くらいの方で後屈している方がいると言われています。
不妊を心配される方もいらっしゃいますが、不妊とは関係がないとされているため、いわゆる「体質」と言っていいでしょう。
画像の上で紹介している子宮後屈がある方は左の仙腸関節障害がありました。
右側に卵巣嚢腫のような卵巣の腫れがあったからなのか、それとも直腸から左に曲がっていく大腸が一度右側へと迂回しているからなのか、「後屈」だけではなく、「左屈」していました。
そのため子宮底部(子宮の一番奥)がちょうど仙腸関節の内側を向いていました。
この子宮底部から逃げる方向への仙骨と寛骨のモビライゼーションが最も治療の効果が高かったことから、もしかしたら関係したのかもしれません。
子宮内膜症・卵巣嚢腫と仙腸関節障害
これは私が、仙腸関節を学び始めた頃に論文で目にしていたことがあり、婦人科疾患が影響することもあるんだなというのはなんとなく理解していました。
かなり大きくなった子宮内膜症や子宮筋腫などであれば、手術の必要もあったかと思います。
実際に論文の中には、骨盤帯痛PGPが子宮筋腫の手術後に消失した例もあります。
画像下部は卵巣嚢腫のように卵巣が腫れ、それが閉鎖神経を圧迫、仙腸関節障害を起こしていました。
他の方の中には、骨盤腰部の治療中に5cm以上で手術予定だった卵巣嚢腫が縮小し、腹部・腰部・臀部の痛みも一緒に改善していったこともあります。年齢的に女性ホルモンが減少する時期だったのも重なったかもしれませんが、そんなこともありました。
3Dによる仙腸関節の分析
触診と機能検査の技術を磨けば、さまざまな痛みや痺れを改善できると信じてきました。
もちろんそれは必要な努力でしたが、もっと細かい組織への勉強へと踏み込んでいかなければ身体の不調の真実に近づくことができません。
そこで始めたのが、画像から立体的に骨盤を復元することでした。
触診や機能検査で得た情報から頭の中で3D化し治療にあたっていたのですが、実際にCT画像から3D化したものと誤差がありました。
難治例ほどその誤差を修正すると改善へと向かっていきました。
ごくわずかな差によって症状が改善するかなんとなくなのかの差があることを実感しています。



さまざまな角度から何度も見返して、触診で得た力学的情報と重ねて、どの筋肉の影響でこういった歪み方をしているのかを検証していくと、少しずつ痛みの原因が見えてきます。
仙腸関節と周囲組織からの神経障害
3D分析によって骨格的にはこういう傾向があると分かっただけで、なかなか良くならなかった方もかなり前進するようになりましたが、これだけではどうもしっくりこない神経症状がありました。
これらの作業だけでも結構な時間画像分析に費やしてきましたが、まだまだ難治例には対応できていないものがありました。
先ほど紹介した婦人科の問題も、これから紹介する神経の走行とその周りの組織との比較をしていく中で発見してきました。
仙結節靱帯の短縮と伸張を分析
まずは仙腸関節障害で多い仙結節靭帯の分析を紹介します。

MRIやCT、レントゲンの分析において非常に難しいのが立体的にどう組み立てるのか、です。
3D分析で全体像は把握できましたが、画像の断面では比較できない断面をまたぐ組織の伸張度を計るにはそのままでは計ることができません。
こういった場合に、歯医者さんで使われている、歯列のようにカーブしている組織を平面にして表す技術を使うことで評価できることに気づきました。
というわけで、仙骨から坐骨までを直線で表し、距離を把握することで靭帯組織が短縮しているのか、引っ張られて捻挫の時のような痛みを出しているのかを分析することができます。
上殿神経・下殿神経・坐骨神経・閉鎖神経・陰部神経の分析
難治例の多くは、長い経過の影響もあってさまざまな症状をきたしている場合が多く、さまざまな神経の走行を確認しながらどんな組織的な圧迫があるか確認し、それとともに仙腸関節の状態を組み合わせて治療計画を立てていく必要があります。
左右の仙腸関節の状態と、それに合わせて神経の走行を確認していきます。



全身との関連性を考える
靭帯や筋肉、そして神経、骨格とかなり詳細なデータが揃ってきました。
ここまでくるとようやく仙腸関節の全容が見えてきます。
仙腸関節自体を触れば、それらの問題が解決できることはまずありません。
明らかに腰部や股関節からの仙腸関節の異常なのに、やたらと仙腸関節に絞ってやって欲しいという方をたまにお見かけします。
そのほかにも、臀部や鼠蹊部が痛いから、そこを直接刺激してほしい、といった要望を持たれる方もいます。
もちろんそれで良くなれば喜んでやるのですが、それであれば、マッサージや鍼、ハイドロリリースやPRP、衝撃波で直接痛い組織を刺激しほぐそうとしたり、仙腸関節に直接アプローチするAKAやカイロプラクティック、石黒法などで改善するはずです。
それで改善できれば、AKAのように仙腸関節メインでは改善できないところから腰仙関節もしっかり見ようとSJFは生まれないし、身体全体の動作を分析して、仙腸関節にかかる負担を軽減させようという、仙腸関節自体にはほとんど動きがないものに対して運動療法は意味のないものになるはずです。
そういった観点からも原因は意外と他の部位に存在していることをほとんどの方は知っているはずです。
というわけで一番わかりやすい隣接関節からの仙腸関節障害をご紹介します。
腰仙関節の奇形
腰椎と胸椎で関節の構造が異なることは、ご存知の方も増えてきました。
腰椎の一部でも腰仙関節は構造が他の腰椎と構造が異なることをそれなりの医療従事者なら知っています。
しかし、左右でその構造が異なる持ち主がいることを知っている方はより少ないです。
来院されている方の中でこういう「特質」をお持ちの方がいます。
こういったかたは難治例、もしくは再発しやすい体質のため注意が必要です。
では実際に来られた方の画像でご紹介します。

腰仙関節は腰椎のような屈曲伸展が得意で回旋が不得意な方もいれば、胸椎のように水平な関節の構造をしてある程度回旋に余裕を持つ代わりに屈曲伸展の可動域が小さい方もいらっしゃいます。
しかし、左右別の形だとどうなるでしょう。
屈曲伸展時に左右で動きの可動域が異なるため、綺麗に動かそうとすることで逆に椎間関節性障害が起こり、変形性腰椎症、最終的には脊柱管狭窄症となります。
モビリゼーションで関節を治療する際も形状的な差を理解するとうまく治療できるため、気づくか気づかないかは大きな差となります。
股関節障害と仙腸関節障害
これは以前にブログで紹介したものですが、股関節インピンジメントがある場合、それによって股関節の可動域は小さくなります。
その状態でも左右同じように可動域を出そうとすると、代償動作はまず仙腸関節にかかり、その後腰椎の代償動作へと移っていきます。
これが仙腸関節の不安定性を引き起こし難治例となる症例があります。

仙腸関節障害にしても他の疾患にしても、1人診ればいくつもの気づきがあり、本当に身体というのは奥が深いものだなと感じています。
今もなお難治例でお困りの方がいるため、暇さえあればずっと画像所見を眺め、3DCADでシュミレーションをして、そして実際に来られた時にあれやこれやと考えてはトライアンドエラーを繰り返している方がいらっしゃいます。
これまでに越えてきた難治例のように、どうにかすれば前進できる可能性もあるため必死に食らいついていきたいと思います。

