ジストニア 腱鞘炎・手の強張り 音楽家に対する治療

ピアノ手関節炎
ピアノ

十人十色な体の中で、スポーツや音楽において一人一人の体とパフォーマンスがどのように関わっているのかを考察して治療にあたっています。

音楽の世界でいえば、体つきの差が、その人のスタイルを決めているといっても良いのではないでしょうか。

患者さんからもこういった話を聞きながら、体とポジションから問題となるポイントを推測していくのに役立てています。例えば、

  • 手が長いからこういう立ち方をしています
  • 指が長いのでこのように指を使っています
  • 背が小さいのでこういう姿勢で歌っています

近頃、チェロ演奏者、バイオリニスト、箏曲家、ギターリスト、ピアニスト、オペラ歌手と立て続けに音楽関係の方が来院されており、手の障害に対する治療の症例をもとに音楽家のための治療を一度整理したいと思います。

今回は音楽関係の方に多いと言われている「ジストニア」、これは脳の問題とも言われておりますが、フィジカルな問題がどのように脳へのストレスとなっているか説明を交えて手の機能障害についてご説明します。

楽器と身体の間合い

まず楽器によって治療方法が少々異なるのは何故かご説明します。

先ほど紹介した、最近来院されている演奏者を例に分類すると、バイオリニストやギターリストというのは、楽器が固定されていないため、手や肘の関節の位置関係を変化させることで楽器を近づけたり遠ざけたりするできます。

しかしピアノやチェロのように、楽器が大きい場合は、楽器との距離感は間合いによって決まります。

箏曲家のように、異なる種目がある場合、それぞれの楽器に合わせてうまく体を変えなければなりません。

音を発生させる効果器が動かすことができる三弦はバイオリンやギターと同じに含まれ、箏(こと)は一度置いた楽器を動かさないのでピアノと同類と言えると思います。

ピアノ
ピアノ
Violinist
woman playing the violin

さて、オペラや長唄のような声が楽器になる歌は何に含まれるでしょうか?

これは私の経験上になりますが、ピアノや箏(こと)と同じ固定された楽器に自分自身の体で間合いを取る楽器と同じだと考えています。

というのは、声帯は甲状軟骨に固定されているため、その声帯に対して、呼吸器に関わる体幹がどのような間合いをとっているかが重要だと治療を通して感じているからです。

となると、吹いて演奏する管楽器はどこに含まれるのか・・・。

演奏する人と、音が発生するものや体の一部を常に洞察することが治療において必要になります。

脳へのストレスと演奏

この間合いというのは、脳がどのように計算をしているかご存知の方はいらっしゃるでしょうか。

めまいやふらつきの神経学と重なるのですが、各関節からの情報と、実際に音を奏でる効果器からの情報とさらに音やバランスを感知する耳からの情報と、視覚からの情報とを常にその状況状況で受け取り臨機応変に対応できるよう計算しています。

この情報を内的キネマティクスと言います。

その楽器ごとの特徴から得た情報は外的キネマティクスとなります。

楽器の特徴と自分の体の状態とを照らし合わせて、体を動かします(キネティクス)。

これが演奏(行動)です。

随意行動の制御
随意行動の制御

楽器が動かせない場合は内的キネマティクスの情報がとても重要になってきます。

今回は、手の障害としても多いピアノと手の機能について症例をもとに内的キネマティクスの異常が脳ストレスとなっている状態ご紹介して行きます。

ピアノと間合い

当院でも、ジストニアやスポーツにおけるイップスのように、視覚的に距離感を掴まなければいけない場合、視覚機能の検査を行いますが、ピアノのように固定された楽器で鍵盤が規則正しく並んでいるものはもはや視覚機能が果たす役割はごく僅かです。

しかし白と黒で並んでいるものは視覚に影響を及ぼすものも多く、「視運動性自己運動知覚」という現象がありますが、今回は割愛します。

視覚的な影響が排除された場合、内的キネマティクスが全て鍵となっています。

座っているポイントからピアノまでの距離は、運動学でいう「矢状面」での運動がポイントです。

今回はこの矢状面の問題点についてご紹介しますが、高さの問題点も重要なポイントとなり、高さだけを単独で変化させる関節は存在せず、傾きや前後の軸も同時に変化するため、考察は容易ではありません。

症例 右手の強張りと距離感

座っている位置とピアノまでの距離が一定の場合、あとの距離感は肩の屈曲伸展動作と肘の屈曲伸展動作によって決まります。

なので肘や肩の治療が、それが例え手の症状であっても必須になります。

先ほど肩の屈曲伸展動作と肘の屈曲伸展動作と説明しましたが、細かい治療を要する場合、もう1つ見ないといけないのが肩の内外旋です。

なぜ、肩の内外旋なのかご説明します。

肩と肘の解剖図
肩と肘の解剖図

肩の挙上(屈曲)によって腕は前に上がります。

また、肘の屈曲で手は前に上がります。

これによって手はピアノの鍵盤に近づくことができます。

図の拡大図のように、肘が曲がっている状態では、手の親指側の骨に接続する橈骨は上腕骨の外側顆の前方に位置します。

尺骨は屈曲位では、上腕骨の下に位置しています。

肩の内旋
肩の内旋

肩が内旋すると、橈骨と接続する上腕骨外側顆は空間的にどのような変化を起こすか想像をしたことはあるでしょうか?

右肩の内旋
右肩の内旋

右肩が内旋すると、上腕骨外側顆は内側顆に比べて前方へと移動します。

肘の回内位と肩の内旋
肘の回内位と肩の内旋

青で囲った橈骨を前方から見た図です。

肩の内旋によって外側顆が前方へと押し出されると、テニス肘のような肘の痛みを起こす場合が多くなります。

その力が肘を超えてかかる場合、次に負担がかかるポイントはどこだと思いますか?

肘を越えてかかった手へのストレス
肘を越えてかかった手へのストレス

そうです。手関節にかかってきます。

最初に説明したピアノは、そして鍵盤も動かない関節なので、指の接地ポイントは移動しません。

つまり、指の接地ポイントから上腕骨外側顆までの間のどこかに必ず緊張が内在してしまいます。

この間合いの変化が結果脳への信号過多に陥りジストニアを引き起こしたり、関節炎を引き起こしたりと発展していくのです。

空間定位から見たピアノ演奏

今回は距離についての誤作動をご説明しましたが、ピアノは上から下に鍵盤を押す動きですので、上下の概念もとても重要になります。

また改めて上下の概念から見た機能障害についてはご説明します。

今まで手の痛みについては関節運動学や神経学を使って説明しましたが、今回は空間に対する関節機能学から見た治療をご紹介しました。

手の障害でお困りの方のお力になれれば幸いです。

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