在宅ワークが進み、普段であればデスクトップパソコンの大きな画面で見ていたのが、タブレット型パソコンによる画面が小さくなり、十分な仕事場を確保できずに画面に近づいてしまっている、そんな方から頭痛やふらつきの相談がありました。
その他にも、頭痛とめまいで来院された方で、症状が出始める前から変わったことがなかったかと状況を問診していく中で、寝ながら携帯を見ていることが多くなったせいだというのがわかったことがありました。
一人目の方は、近くをみることによって起こる眼球の内側への動き、輻輳運動と呼ばれる内側への動きが起こしていためまいで、眼球運動と頸椎の協調運動の調整、そして長時間の座り姿勢による腰と股関節の調整で改善されました。
二人目の方は、普段見ている世界と重力の方向が一定だった状況から、寝ながら携帯で画面を見ることによる重力に対して垂直の世界に視界が広がることによる混乱が影響していることがわかり、眼球の回転と頭蓋や顎関節の調整によって頭痛とめまいが改善されました。
めまいやふらつきといった症状でもその方の状況と症状とをうまく統合して検査と治療を組み合わせることが重要です。
今回は「読む」ということの神経学について最後ご紹介します。
「読む」ことの神経学
文章を読んでいる人の目を追ってみると実際にわかるかと思いますが、文章を読む場合、眼球運動は滑らかに動いてはおらず、高速に単語間を跳ぶように眼球運動します。
この高速に動く動きを衝動性眼球運動 Saccadeと呼びます。
これとは違い、動いているものを目で追う場合のように滑らかに眼球が動くのを滑動性眼球運動 Pursuitと呼びます。
例えば、このブログのように横文字の場合は、外眼筋の外直筋(目を外側に動かす筋肉)によって制御されています。(日本語の教科書のように縦文字はまた別の機能があります。割愛)
外眼筋は6つの筋肉によって成り立っています。


構造と機能を知って本当にうまくできているんだなと思うのは、この外眼筋の外直筋は他の筋肉と違って外転神経によって支配されていることです。
上斜筋も特別な役割があるために、滑車神経という別の神経に支配されています。
国家試験には当たり前のように出題されるこの神経支配の違いは、昨日から考えていくととても合理的にできています。
詳細は割愛します。
臨床から見た考察
一人目の症例でお話しした近い距離で仕事をしていたことがどうしてめまいにつながるのかというと、
ご説明したように近くで見る場合には、目を寄せる内直筋を使って輻輳運動します。
常に焦点を近くにするために行っている眼球の内転によって文字を読む際にサッケードするときに利用する外直筋が利用しにくくなっていたからです。
外眼筋は、他の筋肉と違って筋紡錘と呼ばれる筋肉の張力を感知するセンサーがない組織構造らしく、余計にこの異常を察知できなかったのではないかと推測しています。
文章を読む際のサッケードは、視界の中の興味がある対象物へとジャンプして移動するサッケードと違い、視野の中心窩と呼ばれる目の黄斑中心部分の近傍にある傍中心窩で行っています。
この傍中心窩は視点から1〜5度の範囲でしかありません。
ですのでかなり微細な外眼筋の出力が必要になります。
ちなみに失読症の方は眼球運動の異常をもたらすと言われています。
このように読むという行為はただ視界を探索するのとは違った神経機構が存在しています。
頭痛やめまいでお困りのかたのお力になれれば幸いです。