めまいやふらつきは脳神経外科受診に対して頭痛の次に多いと言われています。
主に画像診断で脳に問題がないとわかれば、身体の機能障害が経度見られる程度であれば経過観察となるケースがほとんどです。
脳の障害と平衡感覚の受容器である耳に問題がなければ、脳神経内科・耳鼻咽喉科では特に疾患がつかない状態となります。
この特定疾患が除かれ場合のほとんどは、統合機能障害として複数の感覚器を調整することでめまいやふらつきは改善することができます。
今回は、「靴をきっかけにして起こっためまい」の症例をもとに体の機能をご紹介します。
症例:
40代 女性
普段から体を良く動かす方で、いわゆる健康的な生活を営んでいました。
ある時から股関節から膝に痛みが走るようになり、足は重く上がりづらく、腰・背中・腕にまで慢性的に凝りを感じるようになっていました。
病院やクリニック・整骨院の受診を続けながら経過を見ているも寛解することなく、それでも今まで通り運動ができるようにと試行錯誤をされていました。
ある時、靴や靴の中敷きを入れると良いという情報から足底圧や足の形状を計測して、足にあった靴を選んだそうです。
しかし、その靴を履いてからなのか、それ以来真っ直ぐ歩くことができず右側へと体が引っ張れる感覚になりしばらく休んでいたそうです。
そんな状況で、同じように歩行障害があった方からのご紹介で来院されました。
機能検査:
現病歴から股関節と膝の問題がふらつきと関係があると感じ、股関節の機能評価をおこにました。
股関節の可動域:
外転20°(痛み+)内転20° 内旋45° 外旋15° 屈曲85°(外旋で+20°) 伸展5°
股関節の外転が20°しかありませんので、片脚支持時に重心が右へと流れるトレンデレンブルグ兆候があります。
さらに股関節の外旋が15°と通常の1/3以下なので、右足接地で身体を前に押し出すことが難しいことが伺えます。
つまり、股関節の機能的に右足接地時にうまく歩けない状態であることがわかります。
眼球運動の:
正中を注視しているときに、やや左目外転位・右目内転位で注視しています。
そのため顔はやや右向きにあります。
外眼筋検査:
右目外直筋に多少の痙攣+、右効き目
視覚的にはやや左視野に意識が高いようです。
評価分析:
靴は、「股関節と膝という、上半身を支えるための部分での症状でかつ地面についたときに衝撃から痛みが走る」だったこともあり、ある程度衝撃吸収性能の高い靴を勧めらたということが問診でわかりました。
機能検査と合わせて考えると・・・
もともと、右足接地時に身体を前に推進させる力が股関節の機能障害によって失われており、前方方向から、どちらかというと身体の右側に体が回旋するような状態になっていました。
そこへクッション性の高い靴にすることで、さらに右方向への動揺が強くなり、代償するべく働く眼球運動は右目の内転で見やすい範囲を超えてしまい制御ができなくなったと予想しました。
治療:
目の右方向への動きを改善するとともに、視野の中心と身体の正中とを合わせるように前庭動眼反射を調整
しかし、これは目の疲労が強く、途中で止めることにし、股関節の調整を行った後に、再度眼球の機能を検査することにしました。
※眼球は反射機能が強いため、眼球→体性感覚の場合は、効果が高いが、体性感覚→眼球へのストレスの場合は、逆効果であるため、体性感覚の調整から行いました。

股関節の機能改善のために、神経系の調整から初め、股関節の筋緊張を下げてから股関節の牽引による可動域の改善を行いました。
腰椎の治療後比較的股関節の可動域は改善し、仙腸関節による寛骨臼の調整によってほぼ健側と同じレベルまで改善
足関節の機能は、扁平気味に拇趾球接地が強いけれどもアーチは確保されていたので股関節からくる足の機能障害だったようです。
治療後:
柔らかい靴は未だ不安が残るもめまいはなく動けるようになりました。
股関節の上がりづらさは、日によってまだ出るために治療を続けていますが、その間もめまいはなく、治療後股関節もすぐに動きやすくなるので比較的安定しています。
現在は、月一のメンテナンスとして治療を継続しています。
考察:
身体の平衡を司るシステムとして、支持基底面(床などの足元)の変化による身体の安定メカニズムというものがあります。
足元が前方に動いた場合、前に傾いた場合、手がどういう状態であったか、など様々な状態に対して身体がどう反応するかを調べた実験です。

カンデル神経科学の「姿勢」927ページをご参照ください
今回のように、靴底や中敷が柔らかい場合に対して、「体は不安定である」という認識をし、それに対する対応として関節や筋肉に対して指令を出します。
その指令先がもともと悪い膝や足、股関節だった場合、指令はうまく伝わらずふらつきを起こす、といった状態だったと考えられます。
複雑な状況に対しても前進できる治療を提供できれば幸いです。