不妊治療 左卵巣の腫れ 十二指腸と第一腰椎の調整の関連

不定愁訴
左卵巣静脈

新しい勉強の課題は、新規で来られる方や久しぶりに再来院される方によってもたらされ、かつその課題は既存の方でうまくいかなかった方を改善する一歩に繋がったりします。

これまでにうまくいかなかった方には、当時出会った頃には至らなかった点で申し訳なく思いますが、これから向き合うかもしれない方々の症状のためにも、こうやって少しずつ治療を成長させなくてはならないと感じる今日この頃。

今までは、筋・筋膜、関節、神経とかなり深く学んできたつもりではありましたが、ここに内臓と血管を付け加えるとかなり詳細まで人の体を見ることができるようになります。

今日は、不妊治療(妊活)に関わる点をご紹介したいと思います。


症例:

これまでに妊活を目的とする方や、腰痛や足の痛みなどを主訴として患ってきた方の中に、こんな随伴症状(副症状)を抱えている方がいらっしゃいました。

①左下腹部の張り(当初は便秘と関連付けをしていました)

②左の腎臓の機能低下(40代前半にして左の腎臓は機能を著しく低下していました)

③既往歴:左陰嚢水腫(男性:子供の頃に手術をしていました)

④左卵巣の腫れ(左の卵管が狭い、左の卵巣からの排卵が少ない)

こういった随伴症状を骨盤内神経の機能低下による症状として、主症状である妊活や股関節治療の一環として、腰部や骨盤の治療を行っていました。

しかし、これらが呼吸(横隔膜)、左卵巣(精巣)静脈、十二指腸とで繋がっていることを知ったのはつい最近です。


機能解剖:

それでは機能解剖学で、これらの症状を紐解いていきましょう。

まずは、機能性ディスペプシアについて記載した部分と重なりますが、

※機能性ディスペプシアについて書いたブログはこちら 胃の痛み・足のしびれ 神経障害と内臓

胃十二指腸 第一腰椎

胃十二指腸 第一腰椎

胃から繋がる十二指腸(上の図緑)は第一腰椎の高さに始まり、第2第3腰椎付近で後腹膜と接続して固定されています。

第1腰椎付近で胃の幽門から十二指腸に至るのですが、この付近では、腹膜内臓器となるため、小網で腹膜と連結してはいるものの、可動性に富む状態です。

トライツ靭帯 十二指腸

トライツ靭帯 十二指腸

十二指腸は横隔膜からなる(今回はこの部分の詳細は割愛します。次回に呼吸と胃の関連で書く予定)と言われているトライツ靭帯(写真黄色で光っている部分)によって、回腸となる前の蛇行部分で第2第3腰椎付近に固定されています。

下部胸椎や上部腰椎への治療が胃腸の機能を改善させるのは、今までも特別なことではありませんでした。

しかし、トライツ靭帯が横隔膜の一部からついていることに気づいた今、なかなか改善しなかった胃腸障害や、呼吸機能の治療に大いに役に立ってくれます。
(※呼吸機能とトライツ靭帯の詳細については次回にアップする予定です。)


今回は、妊活との関連をテーマにトライツ靭帯と生殖器の関わりを述べたいと思います。

不妊治療で相談される「左の卵巣での卵細胞の発育が遅いみたい」「左の排卵ができていない」「左の卵巣が腫れていると言われました」

『では左の卵巣を支配している左の腰椎で悪い部分を探そう』というのは必ず正解とはならなかったのはこのトライツ靭帯が関係していたようです。

左精巣(卵巣)静脈

左精巣(卵巣)静脈

写真ではピンク色で描かれている静脈が左の精巣静脈です。(女性であれば卵巣静脈)

(※乳幼児での陰嚢水腫や鼠蹊ヘルニアではこの静脈ではなく、腹膜から伸びて起こる腹膜鞘状突起が関連します)

左卵巣静脈

左卵巣静脈

左卵巣静脈は右側と異なり、左腎静脈につながります。(右側は、そのまま下大静脈に繋がる)

この左の腎静脈は上腸間膜動脈と腹大動脈によって圧迫を受けることがあります。
(重篤だとナッツクラッカー現象と言われる稀な疾患病態が存在しますので、血尿や下腹部痛がある方は、泌尿器科を必ず受診してください)

上腸間膜動脈 トライツ靭帯 左腎静脈

上腸間膜動脈 トライツ靭帯 左腎静脈

つまり左の卵巣(男性だと精巣)が腫れる原因の1つに、トライツ靭帯や上腸間膜動脈による圧迫があるということです。

そして話を戻すと、トライツ靭帯は横隔膜の右脚からなると言われているので、横隔膜が付着する肋骨や腰部と関連します。

さらに、十二指腸は後腹膜臓器のため腰部(特に第2・第3腰椎)との接続も強く、その全体の位置関係からトライツ靭帯(組織学的には伸び縮みの少ない組織である)の緊張度と左腎静脈や左卵巣(精巣)静脈の圧迫を起こすとわかりました。

このところ内臓や血管の走行にも意識を向け始めたところ、思っても見ない治療効果が出ることもありますが、簡単だと思っていた五十肩の治療で苦戦したり、これならすぐ治せそうだなと思っていた坐骨神経痛も治せなかったりと一喜一憂する臨床の日々です。

また新たな勉強の課題に直面することで、今までに良くできなかった症状をまた1つ改善できる喜びとして感じつつ、人間の体を理解するという途方もない道を漸進していきたいと思います。

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