昨年末よりケアを始めたプロテニスプレイヤーの子が早くも今年の国際大会で準優勝を収めました。おめでとうございます。
昨年は右側の仙腸関節炎により棄権を何度も繰り返しており、フィジカルを見ているトレーナーの方からご紹介いただき治療を開始いたしました。
右側の仙腸関節炎は確かにきつそうでしたが、そもそもはその前に痛めていた左のアキレス腱炎が下部腰椎の神経の炎症によるもので、その腰椎の状態が右の仙腸関節に負担をかけているようでした。
やはり時系列で順を追って体を見ていくのが大切ですね。
さて、今回は前回の仙骨の変位の多様性の理解した上で、今回のテニス選手の症例を検討していきます。
今回の仙腸関節炎については記載はありませんが、スポーツ選手に対する腰痛は外科系について書かれた本ですが、細かい解剖や病態整理などこちらがとても参考になります。

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文光堂の臨床スポーツ医学:
症例:プロテニスプレイヤー 仙腸関節炎
仙腸関節炎と病院で既に診断されているものでありましたが、実際に痛いポイントとしては仙骨の右側全体的にと、腸骨の大臀筋付着部分でした。

硬さとしては仙骨の下面S3,4が後方に張り出しており、仙骨の前傾が強くかつ左傾していました。
右の寛骨も左に比べて前傾しているため、右側で骨盤の前傾が過多となり、左側は右に比べて後傾気味です。
とは言ってもこれはテニスという競技であればフォアハンドとバックハンドの得意不得意のためにある程度差が生じてもおかしくありません。
左右差の問題も確かに重要なポイントで見逃せませんが、今回重要だったのは仙骨と寛骨の前傾角度の差が問題だったのです。
仙骨の前傾角度と寛骨の前傾角度の差による仙腸関節障害
一般的に「骨盤が前傾している」という場合に表現されるのは【仙骨も寛骨も同様に前傾している】ことを言っています。
我々徒手療法家は、仙骨と寛骨の前傾後傾のそれぞれの硬さを触診していきますので、この差がわかり、差を埋めることで仙腸関節にかかる負担を軽減できます。

前回、「仙骨に左傾と後傾が加わることで仙骨底の後方変位に左右差が生じる」そして、それが右側の仙骨の上方可動性に特殊な状態をもたらし、診断が難しくなることを説明しました。
前回のブログ:仙骨の変位 多方向の動きの制限
その仙骨の状態に寛骨が加わるとより難しさを増します。
上の図の左側はとても触診しやすいパターンです。
仙骨の後傾に合わせて寛骨も後傾してくれていれば、骨盤全体として後傾しているため、仙骨の方が硬いのか寛骨の方が硬いのかを比べて治療ポイントを決定します。
しかし、図の右側だと、仙骨としては後傾しているのに寛骨は前傾しているため、仙骨の前傾への治療と寛骨の後傾への治療を共に行う必要があります。
また仙骨の後傾と寛骨の前傾は仙腸関節にとっては緩むポジションのため捻挫のような炎症を引き起こしやすい状態です。なので仙腸関節に治療を行うというよりは、腰仙関節と股関節を調整して、結果仙腸関節が安定するポジションへと誘導する必要があり、全体的な治療をしなければなりません。
今回の症例と治療ポイント

今回の症例は、仙骨が前傾過多に対して寛骨が少し後傾しているという状態が骨盤全体として前傾しているために寛骨の後傾が読み取りづらいというポイントです。
スポーツ選手の多くは、一般的に骨盤の前傾が強い人が多いため、後傾させることで緊張緩和が得られ、痛みを軽減させることができます。
しかし、今回の場合は、仙骨の前傾がかなり強く、それを止めるかのように寛骨が後傾していました。
つまり脊柱側での前方移動が強く、仙骨がそれを受けて前傾が強くなった。
骨盤の前傾は見てすぐわかるため、寛骨の内側の腸骨筋や太ももの大腿直筋などのストレッチは徹底しているために寛骨は後傾機能を取り戻したが、仙骨の前傾は未だ強くそれが仙腸関節炎を長引かせているようでした。
最終的には、股関節の外旋機能の制限が、仙骨の前傾をより強めていたことが股関節の治療を通して分かったために、脊柱だけの治療ではうまくいかなかったのでもう一捻り必要な症例でした。
もっと触診技術のレベルを上げて早く本当の問題点に辿りづけるように研鑽を続けたいと思います。
仙腸関節と関節モーメント
最後に仙骨と寛骨が別々に動く一般モデルを紹介したいと思います。
重力において股関節は伸展する関節モーメントを持っており、仙骨は前傾するモーメントを持っています。
それは、重力線が仙腸関節の前方で股関節の後方に位置するからです。
あくまでも一般なので股関節が屈曲状態になるとまた別のトルクとなりますのでご注意ください。