よく巷で「張ってますね。それで痛いんです」という発言をよく耳にしますが、【張っているかどうか】が問題ではなく、【なぜ張っているのか】を考えるのが大切です。
そもそも「張っている=痛い」は成り立たない。
この方程式が成り立たない理由が肘内側障害においても証明されてきています。
肘の内側の障害は、牽引されて起こる伸長痛です。
こういった「伸長痛」はストレッチやマッサージのように筋肉や靭帯を伸ばしていく治療が効果をなさないため、張っているから押すという単純明快な処置では改善どころか悪化しますので関節の位置的問題を治療していくことが大切になります。
これまでの臨床経験に参考論文を踏まえてご紹介したいと思います。
肘関節内側障害について
最近、大谷翔平選手が再度肘の内側を痛めたことで一般の方にも注目されていますが、スポーツ選手にとっては致命傷となり得る1つがこの【肘関節内側障害】です。
病態的には、野球肘やゴルフ肘のように総称的に呼ばれるものから、損傷組織の名称をとって、内側上顆炎や肘内側側腹靭帯損傷というような疾患が含まれます。
スポーツ障害の多くが適用される「オーバーユース(使い過ぎ症候群)」の一つとして確かにあるこの症状ですが、機能的問題が改善されなければ復帰後繰り返す痛みのため、問題の理解と原因の究明がなされず難治例となるケースも多いので研究が幅広くされています。
最新の医学的研究としては、「損傷組織の同定」に対するものか、「損傷原因特定のための動作解析」が主流かと思います。
これに伴って、治療方法としては、外科的なもの意外に動作(フォーム)の改善を行うものが紹介されてきています。
ちょうど先月に出版された臨床スポーツ医学8月号「成長期以降の野球選手の肘内側障害」ではこの点がたくさん書かれています。
投球フォームについての検証については2022年のものですが、こちらも詳しく書かれていますのでご興味ある方は参照してみください。
臨床スポーツ医学 2022年4月号「投球フォームの改善で肩肘の故障は予防できるのか?」
関節外科 基礎と臨床 MEDICAL VIEW社 2022年12月号
「上肢のスポーツ外傷・障害Up tp date」もおすすめです。
全日本病院出版会が出されているMonthly BookであるOrthopaedics2023年5月号「大人と子供のスポーツ外来 上肢・体幹編」
出版社のリンクはこちら(うまくリンクが貼れなかったので、下記にURL入れておきます)
https://www.zenniti.com/f/b/show/b01/1508/zc01/1.html
整形災害外科2022年4月号「肘関節鏡視下手術のテクニック」
金原出版のサイトはこちら
整形災害外科2020年12月号「上腕骨外側上顆炎の病態と治療」
金原出版のサイトはこちら
この辺りを読んでみると徒手療法が効果的になるポイントがよく見えてきます。
肘内側障害の臨床
スポーツ選手として致命的な障害となるこの内側障害は私自身もテニスの全日本ジュニア優勝選手の治療を携わった時に経験しました。
無事に痛みも機能も改善でき、最後の大会で全日本ジュニア優勝という結果まで持っていくことができました。
この時もでしたし、この後も経験する場合にも肘の内側障害の機能改善に外側である「腕橈関節」がきっかけであったことは今でも手の感覚として残っています。
その腕橈関節(肘外側)が原因となる肘内側障害について臨床スポーツ医学の最新の月刊誌である2023年8月号に書かれていました。
「投球動作のバイオメカニクス〜肘外反ストレス増大のメカニズム」の章の中で、肘の外反(肘内側にある腕尺関節の外転・離開)について腕橈関節がテコとして働いてしまっているということが書かれていました。
橈骨の上方変位は上腕二頭筋の過剰な緊張によって起こりますが、橈骨の上方変位があると肘の外反時に肘の内側側副靱帯がより急な角度で伸長されます。
この腕橈関節のテコによる外反が肘内側障害の難治例の一つとして紹介されていました。
さらに肘の回内運動による橈骨の外方移動がより肘の外反を促すという部分も腕橈関節の牽
引が非常に効果があった臨床的な知見と一致するものでした。
紹介した別の雑誌では、尺骨の外反に加えて前方変位を紹介している部分もあり、普段我々が行なっている後方可動性検査や前方変位の治療が効果を出すエビデンスも続々と画像診断の進化によって証明されてきています。
病態の理解だけでなく、そこからしっかりと効果を出せるように徒手療法の技術ももっともっと磨いてきたいと思います。