「腰痛診療の深化 〜”標準”と”こだわり”を知り診療に生かす」というテーマで金原出版から整形・災害外科2023年7月号が出ています。

どの先生方の論文を読んでみても「いかに適切な診断を下すか」が焦点となっているように感じます。
冒頭に書かれているように、『腰痛』の診療に深い関心を持つのは医師だけではなく、我々のような医療従事者やピラティスやスポーツトレーナーなどボディワーカーの方々も大変興味を持っている分野です。
そういった医師ではなく健康ビジネスに携わる我々は、医学的な標準治療を理解し、自分たちの腰痛治療に対するこだわりが独りよがりではなく、科学的根拠に基づいたものかどうかを確認していく必要があります。
実際に【腰痛診療ガイドライン2019】はガイドラインの中で最も発行部数の多いガイドラインとなっているのはこういったことが背景に考えられます。
腰痛にかかわる疾患のスペシャリストの先生方の標準とこだわりを読んで、腰痛治療を深化させていきたいと思います。
仙腸関節と腰痛の深化
「仙腸関節障害と腰痛」という題で、日本仙腸関節・腰痛センターで整形外科医長の黒澤先生と病院長でもある村上先生が書かれています。
標準的な診断と治療で書かれている徒手検査法は我々が用いているものよりも少なく、特に鑑別診断が必要な、股関節疾患や上殿皮神経などの腰部から降りてくる神経などとの鑑別は書かれていない。

ただ羨ましいことに、仙腸関節(仙腸靱帯・骨間靱帯)に対してのブロック注射による痛みの消失を確認することができる点は、医師ならではの所見で、診断において大変有効になるに違いない。
しかし、臀部痛や坐骨周りの痛みでは、仙腸関節の機能障害によって、仙結節靭帯や仙棘靭帯に痛みが出ることも考えられるため、そういった仙腸関節自体に痛みがない臀部や下肢の痛みなどでは、このブロック注射による痛みの変化を診断に用いることはできない。
こういったことが、仙腸関節痛はまだしも、仙腸関節の機能障害による様々な痛みの診断が難しいという点では、整形外科よりも徒手療法家たちの方がより細かく見ているようで、有益な情報はなかった。
徒手検査法も少ない上に、紹介されている治療法としての徒手療法に関して、AKA-博田法やSwing-石黒法というテクニックとしては決まったルーティンで行うような方法しか書かれておらず、検査や治療法に対する”こだわり”はあまり感じられない。
この辺は、オステオパシーやカイロプラクティックの方が長年の研究と研鑽が詰まっているのを感じます。
股関節障害と腰痛
しかし、この書籍の中に仙腸関節に関して触れている部分が他にあります。
佐賀大学医学部整形外科の森本先生が書かれている「変形性股関節症と腰痛」です。
そこには、腰椎と骨盤・股関節との関連についての論文をたくさん引用されて、その1つに仙腸関節にも触れていました。
この章では、学ぶべき項目がたくさんあり、大変有益な情報を仕入れることができました。ぜひ医療従事者の方は購入して読んでみてください。
この章でも参考論文として紹介されている
The influence of spine-hip relations on total hip replacement: A systematic review
C. Rivièrea,∗, J.-Y. Lazennecb, C. Van Der Straetena, E. Auvineta, J. Cobba, S. Muirhead-Allwoodc
無料でダウンロードできる論文ですので、ぜひ一読してみてください。(タイトルクリックでリンクに飛べます。)

参考論文をもとに、3D画像を作成しました。
これは一般的なものですが、骨盤の評価法として、上記のような方法があります。
Sacral Slope(SS)は仙骨底の前傾角度
Pelvic Versionは大腿骨頭と仙骨底終板の中心と垂直線の角度
Pelvic Incidence(PI)は仙骨底終板から垂直線を引いた線と、大腿骨頭を結んだ線の角度
このPelvic Incidenceが日常動作において、腰椎優位に動くタイプか股関節優位に動くタイプかを決めている、ということがこの論文で書かれています。
スポーツ選手においてはこのポイントはとても重要ですよね。
また、PI値が大きくなると仙腸関節の脱臼が起こるという見解があり、仙結節靱帯や坐骨の痛みに対しては、こちらの角度が非常に重要だと感じています。
PI値は先天的な角度とされる見解も多いですが、仙腸関節が動くものと考えると変化しうるものであり、変形性股関節疾患に対しても仙腸関節がいかに重要かがわかってきます。
PI値が大きい方が、大腿骨頭壊死が進行しやすく(※2)、PI値が小さい方が大腿臼蓋インピンジメント(※1)になりやすいとも書かれています。
※1Riviere C et al: The infulence of spine-hip relations on total hip replacement ; systematic review
※2High Pelvic Incidence Is Associated with Disease Progression in Nontraumatic Osteonecrosis of the Femoral Head(こちらも無料でダウンロードできる論文です)
確かに最近、大腿骨頭壊死で来られていた方は、触った印象でPI値がかなり大きそうでした。今は経過よくジョギングに挑戦されています。
また何度かブログや動画で症例報告している大腿臼蓋インピンジメントについても仙腸関節のIN腸骨の治療で改善する例を紹介していますが、確かにIN腸骨になればPI値は小さくなるのでこれも論文と臨床経験とが一致しています。
下の動画は、何度か紹介しているゴルフの症例で作成しましたが、大腿臼蓋インピンジメントです。寛骨の回旋によって起こるインピンジメントとして紹介していますが、PI値も小さくなります。
まとめ
今回整形・災害外科7月号の「腰痛診療の深化 〜”標準”と”こだわり”を知り診療に生かす」を読んで、こだわりの部分は、理学療法や徒手検査・徒手治療については我々の方がかなり深いところを考えて行なっているため、現在のスペシャリストと呼ばれる病院では外科的診療や画像診断を除いて勉強になる部分は少なかったです。
しかし、全体を映し出す画像診断においての評価方法は、「触る」という行為がどうしても全体よりも局所に長けているだけあってとても参考になりました。
この全体を見る画像診断においては、姿勢を写真で収めることでも予想をつけることができます。
東洋医学で学んだはずの全体を俯瞰して見ることを、局所の状態把握に磨きをかけてきたからこそ、失われてきている気がします。
今一度全体を見て、局所の異常が全体にどのような影響があるか、また、局所の異常が別の問題のどこから起こり得るのか見ていくことの重要性を再度気づくことができました。
また0から学んでいきたいと思います。