坐骨大腿インピンジメントとは
坐骨大腿インピンジメントは1977年にJohnsonによるTHA(人工股関節置換術)術後の持続疼痛の3症例が最初の報告である。
https://journals.lww.com/jbjsjournal/Citation/1977/59020/Impingement_of_the_lesser_trochanter_on_the.28.aspx
股関節の外旋、内転かつ伸展により疼痛を生じ、坐骨大腿間距離(ischiofemoral inerval)=坐骨結節の外側縁と大腿骨小転子の内側縁の間(ischiofemoral space : IFS)の距離が狭くなり、大腿方形筋が障害もしくは坐骨と小転子の衝突が起こり、臀部・鼠径部・大腿部内側部の痛みを起こすとされています。

人工股関節置換術をするような変形性股関節症の重度の方は、股関節の筋肉である中臀筋の機能制限があり、それによって寛骨臼が大腿骨頭を覆う被覆面積の減少を起こし、関節唇の損傷や変形をもたらしている場合が多い。
この中臀筋の機能低下を起こすと、反対側の骨盤が下がるという現象が起こり、歩行時にトレンデレンブルグ歩行という特徴的な歩容を示します。
この結果、人工股関節の手術をしても、坐骨結節と大腿骨小転子の間で狭窄が起こり、大腿骨後面や内側に痛みや違和感を起こす、これがJohnsonが発表した人工股関節置換術後に続く股関節の痛みである、と私は理解してます。
こちらの無料で参照できる論文はとてもわかりやすいので、坐骨大腿インピンジメントを知らない医療従事者の方は参考にしてみてください
リンク:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8448428/pdf/hnab004.pdf
また過去に坐骨神経痛の症例を記載したこちらのブログも同様の問題があります。
デスクワークと坐骨神経痛 坐骨の歪み
スポーツ選手における鼠径部・臀部痛の正体
股関節周囲の疾患が当院では一番多いので、その中でもスポーツ選手も多数います。
サッカー選手や陸上選手のようにいかにも股関節に負担がくるスポーツ選手もいますが、テニスやゴルフなどのようなヒッティングスポーツや投球動作のある野球やハンドボールなどにおいても、臀部や鼠径部・大腿部後面から内側にかけての痛みや違和感を感じている人もいます。
そんな中で、上記のような中臀筋の機能低下を起こしている以外の問題は非常に難解であるため、さまざまな視点で介入していくことが大切です。
今回、その一部をご紹介したいと思います。
テニス 左利き選手における左大腿部後面のつり
テニスでは、高い打点で打つとそれだけネットの先にある相手のコートに減速せずにボールを落とすことができるため、中級者ではまず意識することだと思います。
左利きの選手が高い打点へと腕を到達させるために使う動作としては、
①肩の外転・肩の外旋
②体幹の左側屈
これは誰もすぐに想像できるでしょう。
さて、骨盤は左右どちらの傾斜が望ましいでしょうか?
骨盤を左に傾斜すると、左肩は低くなり、骨盤を右に傾斜すると、左肩は高くなります。
となると骨盤を右に傾斜すれば高い打点に到達しやすくなります。

さて、最初に変形性股関節症の話で紹介した画像を見てみると右に傾斜しているのがわかるかと思います。
つまり、テニスで高い打点を得るために骨盤を傾斜していたことが、大腿部のつりや違和感を出していたのでした。
ここでスポーツ選手で注意するのが、この骨盤を傾斜ただ単純に治療しても、フォーム自体を変えなければまたすぐに同じ状態へと戻ってしまいます。
この左利きの方は、高い打点を得るために必要な2つのポイントの②体幹の右側屈ができていない椎骨が複数箇所あったために骨盤の代償動作を作っていたのが触診でわかり、側屈の治療をすることで治療効果を長く持たせることができました。
産後の仙腸関節の離開が影響することも
骨盤全体の傾斜は、股関節によるものですが、それ以外にも坐骨と大腿骨が近づくことがよくあります。
産後は仙腸関節が一旦緩むため、その後に腰痛や坐骨神経痛で悩む方が多い、身体的変化の大きな過程があります。
こういった仙腸関節の問題も、状況によっては坐骨大腿インピンジメントを起こし得ます。
産後の症例をご紹介します。
産後に続く太腿の張りと坐骨神経痛
もう1人紹介するのは、出産後の太腿の張りと坐骨神経痛です。
骨盤が開いているために重力に対して上半身を支えることができない、これは通常産後3ヶ月くらいで段々と落ち着いてきます。
骨盤ベルトで早期から安定させることもできるため、利用された方も多いかと思います。
今回の方は、その骨盤ベルトによって起こった仙腸関節障害による坐骨大腿インピンジメントです。
出産時に仙腸関節の下部が開くことで産道をひろげることができます。
つまり産後の骨盤の安定も、仙腸関節の下部を骨盤ベルトで抑えることが大切です。
今回の方は、骨盤の上部に引っかかるように付けていたことと、左の骨盤の上に子供を乗せるように抱っこして家事をしていたことも重なって、左の寛骨が右屈した状態となっていました。

最初は太腿の痛みや張りも仙腸関節の障害による症状だと思ってい施術していましたが、仙腸関節へのアプローチだけではうまく症状が取り除けず、坐骨の治療によって大腿骨との距離を増すことで改善が見られました。