基礎研究系の方とお話をすると、地道な努力に頭が上がりません。
日々の臨床で応用している論文や資料なども紹介しながら症例検討をしていきたいと思います。
今回は、最近よく来られる股関節や膝の痛みを抱えている方の中の割と多くの方が患っている「足全体が張る」という症状について【筋膜】や【筋間連結】というキーワードから考察していきたいと思います。
参考文献・参考図書
①筋膜による筋間連結の機能的役割* 一ウシガエ ル膝伸筋を用い た研究一
石井禎基1)# 崎田正博2) 笹井宣昌3) 笠松大輔1) 米 井 信 二 1) 福 田 智 之 1) 土 屋 禎 三 4)
理学療法学 第40巻第1号 16〜23頁 (2013年)
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↑筋膜を切除し、筋間連結を解いた状態での筋力や羽状角の変化による筋収縮力の影響などがよく理解できます。
②筋骨格系のキネシオロジー(※動画資料のfacia lataを参照すると筋膜についてよくわかります)
③骨格筋の形と触察法(筋間連結についてわかりやすいです)
④船戸先生の解剖学テキスト【今回は、右鼠蹊部の筋膜】
今回関係の深い解剖学のページへのリンクはこちら
⑤四肢のマニュピレーション(臨床で利用している優しいテクニック)
症例
股関節の痛みや膝の痛みで来院される方の中に、局所的な痛みだけでなく、「太もも全体が張って痛む」「足全体が重い」と言ったような広い範囲の症状を抱えているかたがいらっしゃいます。
神経痛で考えると複数の神経を同時に障害されるような状態、筋肉痛で考えても複数の筋肉を同時に障害している状態、とあまり起こり得ない状況と言っていいため、他の視点で考えてみる必要があります。
そういった時に思い当たるのが【筋膜】による緊張そしてコンパートメント症候群のような圧迫症状です。
大腿には、実際に”大腿筋膜張筋”という名の筋肉があるように、筋肉の中には、筋膜に張力を与える筋肉が多数あります。

では、今回の太ももの痛みには、どんな筋膜の障害、そして原因があるのでしょうか。
大腿の筋膜
大腿には、太もも全体を覆っている【Facia lata :大腿筋膜(大腿筋周膜)】(※資料によって訳され方が違うため呼び方も変わります)というのがあり、その筋膜を引っ張っている筋肉の代表的なものが”大臀筋”と”大腿筋膜張筋”です。
参考資料②の筋骨格系キネシオロジーの第3版には多数の動画資料(全て英語)があり、その中にFacia lataについての解剖学資料があります。
そちらをみると、大臀筋や大腿筋膜張筋は腸脛靱帯や大腿骨に付着する以外に、Facia lataに付着しており、筋収縮によって、facia lataが外方上方へと引っ張られる様子が見て取れます。

確かに、太ももの外側がパンパンに突っ張っている方は多く、臀筋などの緊張緩和によって大腿の全体的な緊張が緩むことは臨床上よくあります。
その他にFacia lata を引っ張る筋肉にはどんなものがあるでしょうか?
1つ紹介したいのが、【小腰筋】です。

約50%の方にしか存在していないとされる筋肉ですが、こちらは恥骨筋筋膜や、璧側腹膜へと張力を加えるとされているため、大腿筋膜や鼠径部周囲の筋膜を引っ張るため、周囲を走る神経にも絞扼を起こす可能性があり、非常に重要なポイントとなります。
評価と治療
このように大腿全体を覆う筋膜が障害されると、神経や血管の絞扼も予想できるし、可動域の制限もより広範囲に及ぶことが考えられます。
股関節の可動域や膝関節の可動域を検査するにあたり、一方向の機能制限よりはさまざまな方向への機能制限があり、急なロックが起こるような可動域制限よりは、運動の初期から抵抗があり、徐々に抵抗が強くなるような場合にこの筋膜による症状が考えれるでしょう。
最も重要なのは、どこの緊張によって筋膜が引っ張られているかを知ることです。
大臀筋は胸腰筋膜と連結し、胸腰筋膜は広背筋と連結し、広背筋は大胸筋と連結し、・・・・・と考えていくと、原因となる筋肉は多数存在してしまいます。
しかし、広背筋や大胸筋による問題が隠れているなら肩の可動域に問題が現れるし、腹斜筋や腹直筋による問題や、胸腰筋膜など背面にある問題であれば体幹の可動域制限を起こしているはずです。
そう言ったように、他の部位の運動を評価しておくことで、どこから筋膜を引っ張っているのかを予想することができます。
たった1つの症状「太ももが張る」「太ももが重い」「太ももが締め付けられる」という症状であっても、さまざまな関節の機能評価から問題となるポイントが浮き出てくることがあります。
局所的な問題で解決が得られない場合は、少し引いてみて全体から問題点を探していきたいと思います。