「胸を張る」が肩の痛みを起こす 胸鎖関節と肩鎖関節

過外転症候群手・腕の痺れ
過外転症候群

一般的に「姿勢が良い」と言われる体勢であっても、時に詳細をみていくと問題が見つかることがあります。

スポーツにおけるフォームと同じで、各関節や筋肉がどう機能しているかを確認していかなければ問題が把握できません。

今回もランナーの方が患っていた肩のこりと腕の痺れ・痛みの症例をもとに肩の細かい機能について考察していきます。

胸を張る 機能解剖学

胸を張るというのは、「胸椎の伸展」と「肩甲骨を内転」させることを一般的に指すかと思います。

肩甲骨の内転とは、いったいどこが動いているでしょうか

胸鎖関節と肩鎖関節
胸鎖関節と肩鎖関節

肩関節を構成するのは、胸鎖関節・肩鎖関節・肩甲上腕関節・肩甲胸郭関節に分類されます。

「胸を張る」という行為を、「肩甲帯の水平伸展」として捉えるならば、胸鎖関節の動きが重要であることは、一般的にすぐに理解できます。

胸鎖関節の外転(水平伸展)
胸鎖関節の外転(水平伸展)

胸鎖関節の動きによって、肩甲骨が肋骨を滑走する。

この肩甲骨の内転を、「良い姿勢をとる」時に行う「肩甲骨同士を引く」という動作で行っています。

肩甲帯の水平伸展機能

あまり大きく動く関節ではないため、無視されやすい肩鎖関節も実は、重要な肩甲帯の水平伸展機能があります。

肩鎖関節の水平伸展
肩鎖関節の水平伸展

さまざまな筋肉の絶妙な筋収縮によってこの胸鎖関節と肩鎖関節がリズム良くバランス良く動いています。

症例

普段から肩こりのある方が、このところ首から肩にかけて強く凝り固まり、頭痛まで波及してきました。

マラソンを趣味としており、一月に150kmほど走っています。

数キロ走ると腕の振りがとても重くなり、走り続けられないくらい痛みと痺れが出現してきます。

変形性股関節症や脊柱管狭窄症などもあり普段から調整に来ていただいていたのですが、今回の腕の痛みと痺れは今までの肩こりの調整では思うような結果が出ませんでした。

見方を変えてみるために、最近意識していたことを確認すると、胸を張って身体を前に押し出すことを意識していたという話が出たため、鎖骨・肋骨・肩甲骨・肩と肩甲帯の近辺を触診検査してみました。

肩は内巻き(内旋)になっているようですが、鎖骨は伸展しており、外見では良い姿勢をとっています。

しかし、肩の可動域をみると伸展は5°で止まり、外転もかなり重く動きが悪いです。

屈曲に関しては、違和感があるも、可動域は正常。

この肩の可動域の変化から伸展時に起こっている現象を探ってみました

症例 胸を張ることで起こる胸郭出口症候群
症例 胸を張ることで起こる胸郭出口症候群

胸鎖関節は過剰な水平伸展をしており、それを代償するように肩鎖関節が水平屈曲しています。

小胸筋が付着する肩甲骨の烏口突起が後方へと変位するために、小胸筋が緊張し、また、烏口突起のすぐ内側を走るはずの神経が小胸筋に挟まれる、いわゆる「過外転症候群(小胸筋による絞扼神経障害)」が予想できました。

治療

胸鎖関節の水平屈曲モビリゼーションに加えて、肩鎖関節の水平伸展モビリゼーションを行うことで肩の可動域も改善。

その他、頸椎症の治療(これはいつも行っている)を行うことで腕の振りも寛解。

腕に走る痛みと痺れもなくなり、また一段と速く走れるようになりました。

今回は、2回くらい苦戦したために1ヶ月近く腕の痛みを引きづらせてしまいましたが、問題が見えた後は症状も長く続くことはなくなりました。

正しい原因分析ができれば、必ず症状は取れる、そういったことを今回も経験させてもらった症例でした。

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