下肢のリズム障害 歩行・ランニング・ドラム

歩行を誘発する神経回路網不定愁訴
歩行を誘発する神経回路網

歩行やランニングのように自動的プロセスによる運動や、ドラムのように一定のリズムを刻む運動における障害に、痛みとは別に「リズムを上手く形成できない」という症状をきたして来院される方が珍しいものではなくいらっしゃいます。

今日はドラム演奏者の足のリズム障害についての症例です。

歩行のプロセス

リズム形成の話の前に歩行における3つのプロセスをご紹介します。

①正確な制御を必要とする随意的プロセスであり、これは大脳皮質からの随意的な信号により遂行されます。

②捕食や逃避、闘争など情動的プロセスであり、辺縁系や視床下部から脳幹への投射系が関与します。

③歩行時のリズミカルな四肢の運動や姿勢調節など無意識に遂行される自動プロセスであり、脳幹と脊髄における Sensori-motor integrationが重要な役割を果たします。

歩行の誘発とリズム形成の神経機構

中枢神経系には複数の歩行誘発領域が存在し、そのうち、中脳歩行誘発野はというものがあります。

この領域に連続微小電気刺激を加えると、姿勢筋の緊張(抗重力筋の緊張)が増加し、トレッドミルを駆動すると歩行が誘発されることがわかっています。(ネコによる実験からであるが、人間でも歩行が誘発されることが予想されています。)

歩行誘発がなされた後に、筋緊張制御系と歩行リズム生成系とを駆動して歩行が実行されます。

歩行リズム生成系は延髄から下降する網様体せきずいろと脊髄のリズム生成器(Central pattern generator : CPG)から構成される。

歩行を誘発する神経回路網
歩行を誘発する神経回路網

脊髄CPGとパターン生成機構

脊髄には歩行リズム生成器(CPG)が存在する。CPGは介在細胞群と呼ばれる皮膚感覚や固有感覚と呼ばれる筋肉の張力を計る感覚器や関節の位置覚、腱にある受容器から受け取る感覚神経からのネットワークにより構成され、上位中枢からの入力により歩行リズムを生成されます。

このリズムを基に他の介在細胞群の働きによって歩行パターンが作られます。

現在のところ主要なCPGは筋繊維からの情報を受け取るⅠ群線維やⅡ群線維からの入力を受ける介在細胞が関与していると推定されています。

症例:

さて、歩行リズムやパターン生成に骨格筋や関節にある感覚神経の関与がとても重要であることがわかったところで、ドラム演奏者の足のリズム障害について考えていきます。

50代 男性 趣味:ドラム演奏

ここ数ヶ月、ドラム演奏時の足のリズムがおかしくなり、右足がだんだん遅れてくる症状が出てきた。

最初は疲れかなと感じたが、次第にリズムの遅れが強くなり、演奏開始直後からリズムが遅れるため紹介され来院に至る。

健康診断において特に異常はないことから、脳の障害は少ないと判断し、脊髄CPGの観点から関節の感覚神経のチェックと腰椎の状態を検査し治療計画を立てました

考察:

まず、本人が自覚していない症状として、右足関節の感覚神経が少し鈍っていました。

触覚は守られているものの、運動感覚が減少しています。

運動リズムの遅れ以外にも関節可動域いっぱいに動かしてもらうと患側で制限が強く、本人は左右差を自覚していませんでした。

筋力テストを行い、筋力の立ち上がりの減少と、持続的収縮の弱化があり、収縮連関の機能障害が予想できます。

腰椎の触診から第五腰椎と仙骨の間での狭窄や仙腸関節の機能障害が見えたため、腰仙関節と仙腸関節の調整をしながら、下肢感覚と運動感覚の変化を確認していきます。

腰仙関節のアプローチをすることで、足関節の背屈の可動域が改善し、仙腸関節の治療で底屈筋力も改善しました。

しかし、繰り返しの足関節の底背屈でどうしても易疲労(途中から遅れてくる)がありました。

座位での背部の緊張部分に左屈変位があり、それによって右臀部に重心が移動しているように見えたため、座位での重心の調整を行うことで易疲労感も抜けてきました。

リズム形成とパターン形成に深部感覚が大切

今回の症例から見るに、歩行動作の障害と同様、音楽におけるリズムの障害においても同様の運動神経と感覚神経の統合における障害が関与しているものと考えられます。

歩行とドラム演奏で異なるのは、座っているという体勢です。

歩行障害において腰部脊柱管狭窄症も検討しないといけない中で、ドラム演奏は座位による狭窄部位の開放姿勢になることから、今回のように深部感覚の調整だけで効果が出たものと考えられます。

少しでもお力になれれば幸いです。

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