今回はゴルフの肘の障害についてです。
ゴルフ肘や野球肘・テニス肘といったように、スポーツにおいて肘の障害は多く存在しています。
ご紹介したスポーツ障害からもわかるように、ボールを打つ競技・道具を使う競技にとても多いです。
というのは、道具を操作する際に手に負担がきやすいことと、ボールという離れたものに対してどのような体のポジションを取っているかが肘の痛みと関わるからです。
ボールと手の配置だけでなく、手と体幹、体幹と足がどのように配置されるかでどの関節に負担がかかるかが変わってきます。
今回は、手を動かす際の身体のポジションが悪影響をして肘の痛みを起こしていた事例をご紹介します。
肘の運動的な機能
肘を始め、肩や手の解剖学的な特徴からの症例については何度もご説明させていただきますので、今回はまた別の視点をご紹介していきたいと思います。
複数の見方ができるようになると治療にも深みが出てきますので、徒手治療家の方は新しい分野の勉強をお勧めします。
まず肘の機能から考える前に、筋肉の収縮の前提条件からお話しします。
筋肉の収縮というのは、付着している骨と骨が近づく方向に行われます。
では、骨と骨が単純に近付いてくれるのかというと、関節には構造上決められた動きしか持っていないため、筋肉の収縮は一方向ですが、関節の構造に由来して実際に体は動くということになっています。
ここから今回の症例と関係する肘の解剖と一緒にこの点を深掘りしていきたいと思います。
肘の回外について考えていきます。
肘の回外の大きな筋肉は上腕二頭筋(いわゆる力こぶ)と肘の外側にある回外筋によるものです。

この2つの筋肉は肘や肩、体幹の状態によって収縮力が変化します。
というのは、筋肉は力が発揮しやすい長さがあり、肘を曲げていると上腕二頭筋は短くなっており、回外で筋肉をさらに短くするため筋力が下がってしまうのです。
その点回外筋は肘の関節角度の影響を受けにくく、安定して回外筋を利用できます。

上腕二頭筋は、肘が伸びている場合、肘の関節と並行して走るため、回外としての能力が低くなります。
肘の回外を行うためには、屈曲角度がある程度必要になりますが、逆に屈曲角度が多きくなりすぎると、筋肉自体が短くなり、それ以上の収縮力ができなくなり弱くなってしまう、ということもあり、肘の角度が上腕二頭筋の回外としての力を決めているといってもいいと思います。
つまり、肘の回外への力を最大発揮したい(回外筋も上腕二頭筋も利用する)場合には、肘は伸び切らない方が良いとなります。
ゴルフと肘の回外
次に症例に入る前に、ゴルフにおける肘の回外について考察します。
最近では、「リストターン(肘の回内外)はしない」という理論が流行っておるようですが、今回はリストターンを意識されていた方の症例ですので、手のひらを返すようにリストターンをしてスイングをする方の症例です。
左手においての肘の回外をしないにしても、肘の回外(右手だと回内)をする理由というのは、回旋力という力を利用したいからなので、肩の外旋であっても良いのです。
ここがポイントになります。
つまり、左肘を完全に伸ばし切ってスイングする方にとっては、肘の回外の能力は上腕二頭筋を使いきれないために、肩の外旋を利用して、肘の回旋ではなく、肩の回旋を利用した方が良いということになります。
なんとなく、フォームと肘の機能について頭に入ったところで症例です。
症例:左肘 外側上顆炎
50代 男性
現病歴:ここ数ヶ月ゴルフの頻度が増したせいか、もともと違和感のあった左肘後面の痛みが増してゴルフ継続が難しくなり来院に至る。
検査:
左肘は屈曲・伸展・回外で制限があり、橈骨頭は背側+上方に変位していた。
ゴルフのスイング意識として
特に手は使わず、肘をしっかりと伸ばした状態で、体の回旋だけで撃ち抜く練習をしていた。
当初はリストターンを使っていたが、リストターンによるブレが強いためコーチと相談して手首の橈屈尺屈で行うスイングに変更中。
考察
最近では、手首を橈屈(上に曲げ)して、クラブが落ちる重みを使ってスイングするのが流行ってきています。
その場合、肘を伸ばす、pushの動作を利用するため、肘は回外よりも伸展の動きを利用していきます。
ポイントは:体の回旋・肘の伸展・手関節の橈屈尺屈
肘の機能障害の治療のほかに必要な運動連鎖は何かを考えた場合、
肘の回外動作を行おうとしていた体から、肘の伸展の方へと変わった場合にどこに問題が生じやすいか。
また、肘の伸展と体幹の回旋とにどう連動ができていないのか。
1つ目のポイント
肘の回外時に上腕二頭筋を利用していたため、肘を曲げる癖が染み付いていた。
治療としては二頭筋の短縮が認められますので、二頭筋の伸長を狙って橈骨の牽引を行いました。
2つ目のポイント
リストターン時に上腕二頭筋を利用していたため、体幹の左回旋時に左背中を強く後ろに引く癖があった。
その癖は、肩の外旋筋の筋力を弱化させるため、肘の伸展からの連動がうまくいかない運動パターンとなっていた。

治療として、体幹の左回旋時の左後方変位をしている椎骨の調整を行い、特に左回旋時の伸展を作った。
3つ目のポイント
重心移動が、手を引く力を利用し重心移動を先行するスイングから、腕を振り下ろすpush動作(この場合の銃身移動は腕の振りの後に起こらなければならない)のスイングに変化させなけらばならない。
治療として、重心移動の初期動作である足関節のアライメントを調整し、重心移動時の運動連鎖を調整した。

肘の治療自体も効果はありますが、スポーツ障害に対しては、実際のスポーツ時にどのようにして肘にかかる負荷を減らすかを念頭に置かなければ運動すれば痛くなるというのを繰り返してしまいます。
今回も大変勉強になる症例でした。
皆様のお力に少しでもなれば幸いです。