【広背筋】は医療従事者ではない一般の方にも認知されている筋肉の1つです。
しかし、広背筋の機能制限がなぜ起こるのか、そして広背筋が機能制限を起こすとどんな疾患・どんな症状を引き起こすのかきちんと理解している医療従事者は少なく、私自身も解剖学書を5、6冊並べて読んで理解できてきたところではあります。
今回、セミナーに受講していただいていた先生方の希望もあって、医学書から抜粋しながら【広背筋と身体】について理解を深めていきたいと思います。
広背筋と腋窩神経
【腋窩神経麻痺】と聞けば、大抵の医療従事者なら四辺形間隙、別の言い方をすると“外側腋窩隙(QLS)”による腋窩神経の絞扼を思い浮かべるかと思います。
医療従事者でなくとも野球やテニス・ハンドボールなど、オーバーハンド系の動作を必要とするスポーツ選手でも知っている方は多い障害かと思います。
QLSは小円筋・大円筋・上腕三頭筋そして上腕骨に挟まれた隙間で、そこを腋窩神経が走行するため、腕を上げた際に隙間が狭くなり神経の障害が起こることで知られています。

広背筋は大円筋よりも下方を走行するため、このQLSに関与する筋肉ではないとされ、筋肉の走行を知っている人ほど“広背筋と腋窩神経“の影響に疑問を持たれるかと思います。
広背筋の起始部の広さは別の日に説明しました。
『脇がねじれる? 脇が張る 腋窩を構成する筋肉の構造』
今回は停止部について細かくご紹介します。

参考図書:筋骨格系の解剖アトラス 上肢編 (P.48)
広背筋と同じ【肩関節の内旋筋】として分類されるものに、
- 大胸筋
- 肩甲下筋
- 大円筋
などがあります。
1.大胸筋は大結節に付着し、2.肩甲下筋、3.大円筋、広背筋は小結節に付着しますが、上の図でにあるように広背筋と大円筋は小結節稜と呼ばれる少ししたに付着しています。
大円筋と広背筋はその間に滑液包と呼ばれる袋があり直接連結はされていないと表現される解剖学書もあります。
上の図のリンクは船戸和弥先生の解剖学図から引用しています。リンクはこちら
広背筋・大円筋と肩甲下筋の違い
筋の付着部が上腕骨の下の方に付着している「広背筋・大円筋」と上の方に付着する「肩甲下筋」はどのような違いが起こるか理解しているかたはどれくらいいるでしょうか。
私も複数の医学書を読み比べ、深く検討してこなかったことを最近後悔しています。


より体幹に近い肩甲下筋は運動軸のすぐ前を走行するため、内転作用がないため外転時に抵抗を示すことはあまりありません。
しかし、広背筋や大円筋・そして大胸筋は、腱板を構成する肩甲下筋よりも末梢に付着するため、腕をあげればあげるほど張力が高め抵抗するようにできています。
つまり、肩を外転した状態での内旋筋活動は、広背筋や大円筋が強くなり、腕をおろした状態での内旋筋活動は肩甲下筋が強い、ということになります。
この外転時に広背筋の張力が高まることが腋窩神経の絞扼神経障害につながったり、そのほかのインピンジメント症候群や腱板損傷の背景にあることが非常に多いため、肩の痛みと広背筋の評価はとても重要になります。
広背筋と上腕骨頭による腋窩神経麻痺

参考図書:運動器の臨床解剖アトラス(P.74)
参考図書:骨格筋の形と触察法(P.175)
広背筋は外転や屈曲時などで緊張しやすいことは前の章で理解しました。
そして腋窩神経は走行上、上腕骨で形成されるQLSの間を通りますが、その前に広背筋と上腕骨董の間を走行することになるため、そこでも絞扼神経障害となりやすい特徴があります。