サッカー選手のイップス 空間定位と身体の位置覚

股関節インピンジメント
Soccer player kicking soccer ball

輝かしい成績を収めていたトップアスリートから相談を受ける機会のほとんどはこの「イップス」です。

今回は動画で空間定位の異常を引き起こす1症例を紹介しながら、イップスを起こす原因を説明したいと思います。

症例:社会人サッカー

現病歴:

右サイドのトップでプレーしているが、センタリングが思うように上がらない。
股関節痛(グロインペインgroin pain)を長く患っており、現在は落ち着いているが股関節を曲げる屈曲可動域は未だ回復はしていない。
当初感じていた蹴る時の痛みはないためプレーに支障はないと考え、スポーツマッサージと針をしながらプレーを続ける。

既往歴:

2年前 右もも肉離れ
1年前 右足捻挫
半年前 groin pain

触診・検査:

右四頭筋(緊張↑、筋出力低下、反射テスト速度低下)
股関節可動域
屈曲 右80° 左110°
外転 右30° 左40°
内転 右5° 左20°
外旋 右=左
内旋 右<左

腸腰筋(緊張↑、圧痛+、筋出力低下、反射テスト速度低下、γ運動ループ低下)

腰椎左側弯
骨盤の触診 右ASIN変位(前内方変位)

足関節の可動域
内反↓、外反↑、舟状骨下方変位、距骨の外側上方変位

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考察:

2年前の肉離れは上部腰椎の可動性制限により大腿四頭筋の緊張が強くなり、急な負荷がかかった際に肉離れを起こす。肉離れ自体は経過とともに改善をしたが、そもそもの上部腰椎(大腿神経)の機能異常は残ったままだったことにより、急な切り返しの際に腿の筋肉が収縮できず、捻挫を起こした。
足関節が一般的な捻挫(外反捻挫)の反対の内反の可動域が悪かったことから、足関節の捻挫後の固定(内反の方へ引っ張るテーピング)により、徐々に扁平足のように内反足へと変位していった。
その影響で、股関節も内旋し、骨盤も前方回旋され、結果groin painを発症。

groin painと骨盤の機能障害について説明した動画はこちらです。股関節の治療について興味のある方はこちらをご参照ください。

治療計画:

センタリングというインパクトの大きな動作として必要な大腿四頭筋と腸腰筋の神経的調整と骨盤の変位による股関節の空間定位の調整。
これをoutcomeに設定し、競技のパフォーマンスが改善するかを経過観察しました。

治療詳細:

大腿四頭筋、腸腰筋の収縮力や神経系の機能を見ながら上部腰椎を治療。
骨盤の前方回旋、および股関節の可動域を牽引や弛緩法で優しく緩める。
足関節(主に舟状骨、距骨)を調整を行う。

結果:

股関節前面の神経系改善により、細かい切り返しができるようになりました。
そして足関節機能改善によって股関節の回旋可動域も上がり、インサイドの蹴りもスムーズに運べるようになり、センタリングも狙ったところに上がりやすくなりました。
肉離れと捻挫の後遺症がまだ健側と比べるとあるようなので筋トレも一緒に行いながら経過観察を続けています。
今回の症例は、過去の怪我が、その人の足が持っている空間の認識する能力(空間定位)を歪ませてしまって起こった不調(イップス)でした。

股関節が持つ空間認識の異常について説明した動画を作成しましたので興味のある方はこちらを参照ください。


イップスについて

“イップス”のほとんどはこの空間定位の異常といっていいと私は思っています。思い描いたように実際の体は動いておらず、今までやっていた行為から知らずにずれてしまう状態です。
治すためには、いつ頃からおかしいのか、おかしくなった背景には過去の怪我と関連することがほとんどですので、既往歴から考察することも重要です。
最後に空間定位とめまい感、高次機能障害の関連について

「めまい感」を起こす空間定位(空間認識)の異常は耳にある耳石が起こすだけでなく、各関節の機能障害でも起こります。
位置覚と呼ばれる関節受容器の異常で起こるこのめまい感は、時には今回のようにスポーツ障害の「イップス」を起こす原因でもあります。
このイップスはいわゆるBody Imageと呼ばれる自分の体の認識する能力に異常と関連しているため、body imageが障害されると言われているパーキンソン病や線維筋痛症などにも関わってきます。

当院ではこの空間定位を治すことによって高次機能障害に対する治療にも応用しています。

スポーツ障害やパフォーマンスが思うように出ない方、その他にも脳障害などでお困りの方は是非一度ご相談ください。


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