最近の外科治療は、仮想空間の力学計算によって、新しい治療法がたくさん生まれてきているようです。
人間の構造的制限を超えた手術によって、腱板断裂によって起こる変形性肩関節にも光が見えてきています。
「リバース型人工肩関節置換術(RSA)」と呼ばれる手術の前からその後のフォローをさせていただくことがあり、かなり術後の経過が良く、患者さんご自身から我々の成長のために医療情報を提供してくださいましたので、そちらを今回報告したいと思います。
キーワードは、「背景にある頚神経叢の状態」です。
RSAは、整形外科の肩では良く取り上げられる新しい術式ですが、聞き慣れない方も多いと思うので、少しまとめてみました。
RSAの適正使用基準
リバース型人工肩関節置換術は、腱板断裂をきたしている場合に、残存する三角筋の収縮によって肩関節の外転・挙上ができるように、肩関節の回転中心を外方化したものです。
人間の肩関節の構造である凹凸と逆の凹凸を置換するためリバースの名がついています。
私が拝見した方は、腱板が断裂せずに残っていたため、RSA手術としては稀な例になるかと思います。
ただ、上腕骨近位端骨折に対するリバース型人工肩関節置換術は日本で開始あれた2016年の120件から2021年には800件とかなり増加していることから、中には、私が拝見したように腱板温存している方も多く出ていきているのかと推測しています。その背景には、従来の人工骨頭置換術の成績が不安定だったこともあるようです。
リバース型人工肩関節全置換術の適正使用基準については日本整形外科学会が作成していますので、こちらもご参照ください。
https://www.jsfr.jp/download/rsa/2023_appropriate_use_criteria_asa.pdf
症例:骨折後の変形性肩関節

こちらは人工肩関節置換術前のレントゲン写真です。
昔に上腕骨を複雑骨折したために、プレート固定をして過ごしていました。
私が拝見した時点での肩関節の可動域は、
屈曲:85度
外転:60度
と日常生活はかなり苦しい可動域でした。
90°以上は腕を上げられるようになりたいことと、骨萎縮が進み、ボルトのネジが露出しそうな状態であるために、初診時に、RSA手術を検討していることも伝えていただいていました。
現段階で肩関節以外のどこに問題があって、肩関節の動きに影響があるかという視点で見ることで、肩関節の手術後にも負担となりそうなポイントを見ることにしていきました。

このレントゲンは最近になって拝見したので、通院中は触診で手探りで探していたのですが、第6頚椎が左下がり、第5頚椎が左上がりとレントゲン画像でも下部頚椎が左凸のカーブをしています。
実際にこの頚椎の治療で、術前の段階でも可動域を少し改善できることがわかりました。
また、膝や腰にも症状があるため、足腰の治療でも肩の可動域を改善していました。
RSA手術後
RSAはその肩の手術の第一人者の1人の方に手術をしていただいたようで、手術時代は無事に終了。
そして通院によるリハビリが開始になりました。
手術後すぐに当院にも来ていただいて、病院でのリハビリと当院での治療とを併用しながら進めていきます。

こちらがRSA手術後のレントゲン写真です。肩甲骨に凸、上腕骨が凹と斬新な画像が写っています。
病院でのリハビリは、他の疾患の手術後同様、肩関節をひたすら、「動かす」「動かされる」のようで、その翌日は肩関節に痛みを覚えるようで、一旦可動域は落ちていました。
ただこの可動域も他動運動として私が上げてあげると確かに前よりも可動域が上がっています。
いわゆる筋肉痛によって自力であげるのがキツくなっているようです。
そういった余分な強張りは、神経の促通によって緩和されます。
今まで可動域の改善に役に立っていた、頸椎や腰椎を治療しておくと可動域が1段階上がります。
それを何度か繰り返して半年くらいでしょうか。
肩の屈曲130°近く上げられるようになり、日常生活がだいぶ楽に送れるようになりました。
まとめ
どの手術にも言えることですが、特に手足の手術の場合、その神経支配領域の促通をしているかどうかで手術後のリハビリがスムーズに向かうかどうかが別れてきます。
手術した病院でのリハビリでは、技術的にも時間的にも、医療点数的にもそこまでのケアはできません。
どの手術、どの疾患にもうまくいかない例に対しての記載がありますが、他疾患が同時に起こっている「マルチモビデティ」がほとんどの場合、その難治例に含まれていそうです。
改めて全身治療の重要性を感じます。

