よく巷で「張ってますね。それで痛いんです」という発言をよく耳にしますが、【張っているかどうか】が問題ではなく、【なぜ張っているのか】を考えるのが大切です。
そもそも「張っている=痛い」は成り立たない。
この方程式が成り立たない理由が肘内側障害においても証明されてきています。
肘の内側の障害は、牽引されて起こる伸長痛です。
こういった「伸長痛」はストレッチやマッサージのように筋肉や靭帯を伸ばしていく治療が効果をなさないため、張っているから押すという単純明快な処置では改善どころか悪化しますので関節の位置的問題を治療していくことが大切になります。
近年の研究によっていかに伸長される靭帯を筋肉でカバーするか、また、靭帯の伸長に関わる関節の離開をいかに防ぐか、が治療のポイントになりますが、これまでの臨床経験に加えて参考論文を踏まえてご紹介したいと思います。
肘関節内側障害について
最近、大谷翔平選手が再度肘の内側を痛めたことで一般の方にも注目されていますが、スポーツ選手にとっては致命傷となり得る1つがこの【肘関節内側障害】です。
病態的には、野球肘やゴルフ肘のように総称的に呼ばれるものから、損傷組織の名称をとって、内側上顆炎や肘内側側腹靭帯損傷というような疾患が含まれます。
スポーツ障害の多くが適用される「オーバーユース(使い過ぎ症候群)」の一つとして確かにあるこの症状ですが、機能的問題が改善されなければ復帰後繰り返す痛みのため、問題の理解と原因の究明がなされず難治例となるケースも多いので研究が幅広くされています。
オーバーユース以外だと、転倒時に手をついた時の外傷が原因となります。
最新の医学的研究としては、「損傷組織の同定」に対するものか、「損傷原因特定のための動作解析」が主流かと思います。
まずは組織損傷の研究から治療を考察していきます。
肘関節内側側副靱帯UCLに対する機能解剖学
組織損傷の同定の進化については、画像診断の進歩によって撮影条件の設定がポイントとなるようですので、我々にはあまり縁がありません。
しかし、その画像診断等の進化によって損傷部位となる「内側側副靱帯UCL」がどういったものなのかがわかってきました。
2019年のClinical Anatomyにおいて東京医科歯科大学の先生と船橋スポーツ整形の先生方の研究が出ておりました。(論文のリンクは下記になります)
Medial Elbow Anatomy:A Paradigm Shift for UCL Injury Prevention and Managment
Download Freeの論文でしたので参考に解剖の資料を載せておきます。

These two TS, the intramuscular tendon of the brachialis muscle, and the deep aponeuro- ses of the FDS and FCU muscles were connected and formed the tendinous complex
※Medial Elbow Anatomy: A Paradigm Shift for
UCL Injury Prevention and Management
SHOTA HOSHIKA,1,2 AKIMOTO NIMURA ,3* REIKO YAMAGUCHI,1 HISAYO NASU,1 KUMIKO YAMAGUCHI,1 HIROYUKI SUGAYA,2 AND KEIICHI AKITA
1Department of Clinical Anatomy, Graduate School of Medical and Dental Science, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo, Japan
2Shoulder & Elbow Service, Funabashi Orthopaedic Sports Medicine & Joint Center, Funabashi, Chiba, Japan
3Department of Functional Joint Anatomy, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo, Japan
とのように論文には書かれており、つまり、円回内筋PTと浅指屈筋(FDS)間の腱性中隔は、上腕筋の内側縁に存在する筋内腱やFDSの深層腱膜へと連続していることがわかりました。
そしてこの腱性中隔が内側上顆前壁から鉤状結節ST前面に付着して腕尺関節を覆っていました。

つまり、円回内筋・浅指屈筋(特に第2第3指)の補強が重要になると誰もが想像できるかと思います。
実際に、第2・第3指の収縮によって内側関節裂隙幅が減少したという結果も出ています。
Valgus stability is enhanced by flexor digitorum superficialis muscle contraction of the index and middle fingers
では、鍛えて強くすれば・・・。と単純に考えるのは危険です。なぜなら腕尺関節の安定に関わる腱性中隔に付着し、張力となり得るのも円回内筋や浅指屈筋です。つまり、筋肉の収縮によってUCL含め、内側安定機構の張力を強くすることによって、切れやすくもなってしまいます。
安定機構を補強するにも限界があり、いかに外反の角度含め、内側関節裂隙の離開を少なくさせるかもポイントとなります。
この辺は、もう1つの研究の動作解析や機能運動学の深化が重要となります。
肘関節のバイオメカニクス
この肘の内側障害では、肘の外反(前腕が外転)していく機能をいかに少なくさせるかが焦点となります。
投球動作では、信原先生が動作解析から研究されており、投球側上肢の軌跡をThrowing planeと呼び、Throwing Plane Conceptが投球時の肩肘障害においての治療コンセプトになると言っています。
投球時は加速期において肘と手首の位置が同じPlane上にあると肘の外反が最も小さくなり、肘の内側障害のリスクが最小になります。

この肘の位置と手首の位置を同じPlaneにするためには肩関節の外旋が重要になります。
しかしこの投球時の肩関節の外旋には、股関節・脊柱・肩甲骨・鎖骨・上腕骨を含めての外旋となるため、実際には「肩関節の外旋」ではなく複合運動のため「Total external totation」と呼ばれています。

実際に、肩甲胸郭関節によって肩関節外旋をおこなってしまうと、つまり肩甲骨の伸展が強制され、胸郭と肩甲骨下角が擦れ合い、滑液包炎を起こすことが知られています。
その点、我々がおこなっている各関節の可動性検査:モーションパルペーションはこのどれが外旋可動域・可動性が低下しているのかを検査し、治療できるためとても有効な治療ができます。
ちょうど先月に出版された臨床スポーツ医学8月号「成長期以降の野球選手の肘内側障害」ではこの点がたくさん書かれています。
投球フォームについての検証については2022年のものですが、こちらも詳しく書かれていますのでご興味ある方は参照してみください。
臨床スポーツ医学 2022年4月号「投球フォームの改善で肩肘の故障は予防できるのか?」
関節外科 基礎と臨床 MEDICAL VIEW社 2022年12月号
「上肢のスポーツ外傷・障害Up tp date」もおすすめです。
全日本病院出版会が出されているMonthly BookであるOrthopaedics2023年5月号「大人と子供のスポーツ外来 上肢・体幹編」
出版社のリンクはこちら(うまくリンクが貼れなかったので、下記にURL入れておきます)
https://www.zenniti.com/f/b/show/b01/1508/zc01/1.html
整形災害外科2022年4月号「肘関節鏡視下手術のテクニック」
金原出版のサイトはこちら
整形災害外科2020年12月号「上腕骨外側上顆炎の病態と治療」
金原出版のサイトはこちら
この辺りを読んでみると徒手療法が効果的になるポイントがよく見えてきます。
肘内側障害の臨床
スポーツ選手として致命的な障害となるこの内側障害は私自身もテニスの全日本ジュニア優勝選手の治療を携わった時に経験しました。
無事に痛みも機能も改善でき、最後の大会で全日本ジュニア優勝という結果まで持っていくことができました。
この時もでしたし、この後も経験する場合にも肘の内側障害の機能改善に外側である「腕橈関節」がきっかけであったことは今でも手の感覚として残っています。
その腕橈関節(肘外側)が原因となる肘内側障害について臨床スポーツ医学の最新の月刊誌である2023年8月号に書かれていました。
「投球動作のバイオメカニクス〜肘外反ストレス増大のメカニズム」の章の中で、肘の外反(肘内側にある腕尺関節の外転・離開)について腕橈関節がテコとして働いてしまっているということが書かれていました。
橈骨の上方変位は上腕二頭筋の過剰な緊張によって起こりますが、橈骨の上方変位があると肘の外反時に肘の内側側副靱帯がより急な角度で伸長されます。
この腕橈関節のテコによる外反が肘内側障害の難治例の一つとして紹介されていました。
さらに肘の回内運動による橈骨の外方移動によって、外反による橈骨の外方移動が十分でなくなることも、腕橈関節での外反が行われ、内側関節裂隙がより大きくなり、損傷につながるということも書かれていました。
外反運動も腕橈関節・腕尺関節どの関節で行われているかを検査し治療することも大切で、モーションパルペーションがこの辺は得意とする分野となっています。
紹介した別の雑誌では、尺骨の外反に加えて前方変位を紹介している部分もあり、普段我々が行なっている後方可動性検査や前方変位の治療が効果を出すエビデンスも続々と画像診断の進化によって証明されてきています。
肘疾患と神経障害
組織の理解、力学的理解、関節運動学、この辺りをアップデートすることでかなり細かい治療ができるようになりますが、そもそも肘の障害を筋肉や関節だけで捉えていては、完全に取り切ることができない事例がほとんどです。
というのも神経障害が必ずといっていいほど肘の痛みの背景に潜んでいるからです。
どれくらいの有病率かを調べたアンケート調査があります。
成長期の潜在性上肢神経障害の有病率は、小学生16.9%、中学生29,3%、高校生47,8%と出ています。
成長期野球選手における上肢神経障害の有病割合
猪狩 貴弘 , 大歳 憲一 , 加賀 孝弘 , 宍戸 裕章 , 紺野 愼一, 伊藤 恵康 , 古島 弘三 , 古賀 龍二
福島県立医科大学整形外科学講座、福島県立医科大学スポーツ医学講座、慶友整形外科病院
胸郭出口症候群(TOS)に関しては、高校生を対象とした調査でその有病率が32,6%に及び、またTOSの存在下では、肘痛や肩痛をきたしやすいことも報告されています。
The Prevalence and Characteristics of Thoracic Outlet Syndrome in High School Baseball Players
整形外科に受診した方の中で、この有病率ですと、我々のところに来院されるようないわゆる難治性の方の多くは神経障害を内在していることが予想できます。
今回は、たくさんの本をもとに、病態理解や最新の知見を学んでいきました。
そこからしっかりと効果を出せるように徒手療法の技術ももっともっと磨いてきたいと思います。

