「耳鳴り」は大変難しい症状で、過去に来ていただいていた方でうまく行かなかった方が目に浮かびます。
あれから技術も少しは上がり、筋骨格系だけでなく、口腔外科領域や耳鼻咽喉領域の勉強はしてきたものの、耳鳴りは難しい症状であることには変わりありません。
しかし今回続けて2人の耳鳴りが改善したので、症例検討とともに、この数年で勉強してきた内容をまとめてみます。
耳の問題だから耳鼻咽喉科の領域だよね、と思う方がほとんどだと思いますが、口腔外科領域が関わる所以もご紹介できたらと思います。
症例1:筋性耳鳴 耳管開放症
耳鳴りの中には、「筋性耳鳴」と呼ばれる耳周囲に付着する筋肉の異常な収縮リズムによって起こる耳鳴りがあります。
筋性というだけあって、この耳鳴りなら徒手的アプローチでもいけるんじゃないかと思いましたが、今回続いて2人がうまく改善しました。

耳管開放症と呼ばれる、喉と耳をつなぐ耳管が開いている症状も持ち合わせていました。
耳鳴りは、右側だけで、歩行動作でカチカチと音が耳に響くという症状でした。
口を大きく開けるとガクッと音が鳴る「顎関節症」らしき症状もありました。
耳(外耳道)は顎関節のすぐ後方にあるため、耳周辺の筋肉が関与するのであれば、顎関節も評価しなければならないかと思います。
元々は腰痛及び坐骨神経痛(膝の裏の痛みなので膝の痛みとも捉えられる)の症状で来られたのですが、すぐに良い結果が得られたため、この耳鳴りもなんとかなるものなら、という流れになり、そちらも主訴として施術をすることになりました。
この後に詳細の解剖学(筋骨格系)的に頭で描いていたことをご紹介します。
症例2:両側性の耳鳴り 高音域の聴力低下 側頭部のキーンと後頭部のジー
最初にご紹介した方の耳鳴りが良くなってすぐに、同業者からの紹介で耳鳴りを主訴にされる方が来られました。
何件かの耳鼻咽喉科を周っているため、かなり細かい耳の機能まで検査をされています。
高音域の周波数の聴力が低下しているので、加齢によるものも疑われましたが、この方まだ40代前半です。
両側性であるため、突発性難聴は考えられないということから、漢方薬と神経に対する薬を処方され服薬。しばらくすると側頭部のキーンという耳鳴りはだいぶ落ち着いたそうです。
しかし、代わりに後頭部に「ジー」と低い音の耳鳴りが鳴り続け睡眠障害と共に、仕事中も気になって集中できない状態でした。
運よくこの方は1回目の治療の翌日には1/3程度まで耳鳴りが落ち着き、日常生活には支障が無い程度まで落ち着くことができ、これから3回目の施術を控えているので、この後もさらに改善できるように頑張りたいと思います。
※ブログ投稿後、3ヶ月ほどで耳鳴りはほとんどなくなりました。仕事が忙しかったり、スポーツ時に接触があった後など再発もありましたが、今までと同じあたりの治療で毎回改善するため今もメンテナンスで通っていただいています。
さて、ここから細かい考察へと移っていきます。
耳管の機能解剖 【口蓋帆張筋】
飛行機に乗って、上空に上がった際に気圧の変化で鼓膜が外に押される奇妙な感覚が嚥下(飲み込む)と改善されるのは「口蓋帆張筋」がになっています。
口蓋帆張筋は、耳管(喉の奥にある耳管咽頭口と中耳をつなぐ軟骨部と膜様部から構成される組織)の膜様部に付着し、嚥下時に膜様部をひっぱり耳管を解放します。
これによる鼓膜内の圧力変化が「耳抜き」になります。
最初に口腔外科領域が関わるという話をしたのが、この口蓋帆張筋の神経支配が、咀嚼と関わる三叉神経支配であるという点です。


図1は下側から上顎の下面を除いているような図です。
黄色く記した筋肉が口蓋帆張筋で、軟口蓋と呼ばれる鼻と口の間にある軟部組織に付着しています。
この口蓋帆張筋がとても嚥下に役立っているのですが、今回はその詳細は割愛します。
この口蓋帆張筋が嚥下に反射的に関わっていくためにある、特徴を持っています。
それが下のリンクにある論文に書かれているのですが、”軟口蓋に分布する筋群の筋紡錘(筋肉の張力を計るセンサー。多いと反射機能が高い)の分布を調べた研究の中で、口蓋帆張筋の垂直部に大型の筋紡錘が大量に分布することが明らかにされています”

下のリンクでは、口蓋と咽頭の機能形態の論文です。



つまり何かというと、
口蓋帆張筋は反射によって筋収縮するのが得意な繊維であるため、何かによって伸長されると収縮しようと働き、耳管の開放につながってしまう
このように私は考えました。
では口蓋帆張筋が伸ばされる刺激とは何があるかというと、飲み込む以外には通常考えられません。
頚椎の回旋や側屈の変異によって、この口蓋帆張筋や咽頭壁にストレスをかけることはあるのではないか、そう考えています。
症例:頚椎の特異な状態
首を回旋した状態で、飲み込もうとすると、うまく飲み込めないことに気づくと思います。
これは、飲み込むための舌骨の動きが頚椎の回旋により制限されるためです。
人によっては、喉(もしくは首の前方)に痛みを感じながらなんとか飲み込めるような感覚になるかと思います。
頚椎の回旋が思うように行かない場合や、側屈によって頸部の筋緊張が加わると舌骨や舌の動きが粗雑になり、嚥下がスムーズに行えません。


これをみていただくと、ちょうど環椎の高さに口蓋帆張筋が存在しているため、環椎の回旋(可動域的にも回旋が最も大きい)が起こった際に、口蓋帆張筋及び咽頭壁にテンションがかかることは想像ができます。
実際の2人の症例ではこの様な変位でした。




患側の方が環椎の上方変位がみられました。
環椎は上方に変位する際に頭蓋に近づくため、外耳により接近する関節運動を起こします。
回旋の変位は患側が後方に変位するパターンと前方に変位するパターンで異なりましたが、前方に変位した方が、耳管開放症があった方のため、環椎の前方変位による横突起が接近することで口蓋帆張筋が伸長し、反射的に耳管を解放していたとも考えられます。
よくなった方はなぜ良くなったのかをきちんと論理立てれる様にし、良くならなかった場合には、どんな方法なら徒手的なアプローチで変化を出せそうなのか、論文や解剖学書を読み回して復習しておくことが、いつか来られる患者さんの助けになることを実感します。
最近は、また手の障害について復習していきます。
手こずっている方がうまく行った際にはまたまとめていきたいと思います。